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第6928号

【主な記事】

通常貯金の限度額は撤廃
[日本郵政]長門社長 民営化委員会で要望

 第186回郵政民営化委員会(岩田一政委員長)が3月15日に開かれた。日本郵政の長門正貢社長がヒアリングに出席し、ゆうちょ銀行の限度額について「2015年12月の同委員長所見に示された三つの案のうち、通常貯金から限度額を外す案を希望する」と日本郵政グループとしての考えを明らかにした。

 通常貯金の限度額撤廃を要望する理由として長門社長は、お客さまの利便性と現場の事務の軽減を挙げた。現在、ゆうちょ銀行の貯金は通常貯金と定期・定額貯金を合わせて1人1300万円の限度額が設けられているが、通常貯金と定期性貯金の合算した金額を利用者で管理する必要があり、利用者と現場の社員の両方に負担がかかっている。
 全国郵便局長会(青木進会長)からも「その仕組みを高齢者に説明することが難しい」という意見が委員会に寄せられている。通常貯金の限度額が撤廃されれば定期性貯金は1300万円まで可能となり、その範囲内で管理することができる。
 現在は貯金の総額が1300万円を超えた場合や通常貯金に設定した限度額を超えた場合は、無利子の振替貯金に自動的に移行されるが、撤廃されればそれがなくなり、管理がしやすくなる。
 委員会では、通常貯金の撤廃について、委員からは「地域の金融機関との連携にマイナスの影響が出ることについてどう考えるか」「貯金残高は大きく運用難でもあることから、限度額の緩和はバランスシートコントロールが難しくなるのではないか」「中長期的には郵便局ネットワークの維持はどのようにしていくのか」「地域金融機関は低金利で経営に苦しんでおり、限度額が緩和されればゆうちょ銀行に資金が流れる可能性についてどう考えるか」という質問があったという。
 これに対して長門社長は地域金融機関との連携については「地域活性化ファンドは日本各地でニーズがあり、地域金融機関と話をしながら連携を継続したい」と回答したという。
 ゆうちょ銀行は現在、10件の地域ファンドにLP(リミテッド・パートナー)として参画し、総額36億円を出資している。地域ファンドを事業性評価での出資や事業承継支援など地域のニーズを踏まえ、地方創生を推進している。
 バランスシートコントロールについては「マイナス金利環境で貯金を集めるほど収益が減る。貯金を集めるインセンティブはないが、貯蓄から投資(資産形成)を進めるため、投資信託の販売の推進などにより対応したい」。
 投資信託取扱郵便局は1415局あり、NISAやつみたてNISA、個人型確定拠出年金「iDeCo」、投資信託などが提案できる金融商品のコンサルティング業務にも力を入れている。
 郵便局ネットワーク維持については「はがき(通常はがきは昨年6月~、年賀はがきは2019年用~)やゆうパック(3月~)の値上げによる収益増や、はこぽすの設置による経費削減などを行っているが、まだやれることはある」。
 資金シフトについては「限度額を1000万円から1300万円に引き上げたが、資金はメガバンクに移っており、通常貯金の限度額を撤廃してもそれは変わらないと思う。現在も振替貯金には限度額がないため、資金シフトがあればそこに流れているはずだが、それはない」と回答したという。個人の振替貯金残高は11兆円。
 昨年7月に総務省が発表した人口・人口動態・世帯数によると、東京圏・名古屋圏・関西圏の三大都市圏の人口は6453万人となり、全人口の51.4%を占める。11年連続で三大都市圏への人口流入が続いている。例えば地方で親族が亡くなり、相続者が都会に住んでいる場合は、利用しているメガバンクに相続した金融資産を移動するケースも考えられる。
 地方の経済の縮小や働き方改革などにより、本社から地方への転勤者も減っている。地方の金融機関からメガバンクへのシフトの数値は示されなかったが、地方から都市への人口流入が続いていることからも推測できる。
 資金シフトについては、委員会でモニタリングされており、昨年5月の委員会の総務省と金融庁のヒアリングでは「特段大きな問題はない」、昨年9月には「資金シフトが起きている状況ではない」という説明があり、岩田委員長も両省庁と同様の見解。
 委員会では3月23日に全国銀行協会や全国地方銀行協会、全国信用金庫協会にヒアリングを行った。岩田委員長は「業界からご意見をいただき、議論して考えをまとめたい」としている。
【2015年12月の委員長所見の3案】
 2015年12月の委員長所見には、ゆうちょ銀行の限度額については①通常貯金を限度額の管理対象から外す②限度額を一定額まで引き上げる③通常貯金を限度額管理対象から除外し定期性貯金の限度額を一定額まで引き上げるという方法が示されており、岩田委員長も「これらを踏まえて議論する」という方向性を示していた。

全銀協の平野会長 影響を考え判断を

 全国銀行協会の平野信行会長(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)は3月15日の定例会見で、ゆうちょ銀行の限度額に関し「官民の適切な役割分担を行うことで、中小企業支援や地方創生への貢献を果たしていきたい。また、郵政民営化委員会の3年検証が進んでおり、必要な意見を発信していく」と語った。
 また「ゆうちょ銀行と民間の金融機関や全銀協は、ATMの相互利用、ゆうちょ銀行の全銀システム接続、全銀協への特例会員としての加盟、ゆうちょ銀行による民間金融商品の販売、投資運用会社の共同設立、最近では地域活性化ファンドへの共同出資など様々な連携・協働を進めてきた。こうした取組みは、ゆうちょ銀行の利用者の利便性を高め、民間金融機関の共存共栄の実現を通じて地域経済の活性化に貢献しようという趣旨」と強調した。
 これらは「ゆうちょ銀行のユニバーサルサービスを活用しつつ、民営化を通じて民間の金融システムに融和させていくという構想の下に進められてきた取組みで、民間金融機関との相互信頼関係が着実に醸成されてきた」と評価した。
 一方で「通常貯金の限度額が撤廃された場合には、こうした大きな流れに支障をきたすことになる。厳しい経営環境にある地域金融機関、なかんずく中小金融機関への影響、すなわち金融機関の収益環境が悪化し、経営が不安定となる場合に、預金がシフトするという結果を招きかねない」とした。
 平成28年4月にゆうちょ銀行の預入限度額が1300万円に引き上げられて以降、「ゆうちょ銀行への資金シフトは生じていないとされている。統計を見れば、民間金融機関とゆうちょ銀行の預金の伸び率に顕著な差はない」との認識を示したが、「超低金利環境が続き、金融システムも著しい変化がないという点を踏まえると、この間の推移だけをもって影響がないと判断するのは早計」と述べた。
 そして「限度額撤廃の潜在的な影響を十分に考慮して、委員会は判断して欲しい。さらに、すでに預貯金で2割もの市場シェアを有するゆうちょ銀行は、外貨運用を進めるとともに、貯蓄から資産形成への流れに沿った投信販売を推進するなど、様々な努力を続けてきた。しかし、限度額を撤廃して貯金残高の増加につながった場合、とりわけ現在のマイナス金利環境下では収益の圧迫要因となる。また、これを回避するために、外貨運用での資産運用を拡大させるとなると、歪みを生じさせる懸念もある。全銀協としては限度額の規制を緩和すべきではないと考えており、必要な意見を述べていく」とした。
 また、「ゆうちょ銀行はわが国の市場において最大の預金金融機関だ。その動向、戦略次第では、金融システムに与える影響は極めて大きい。金融システムは様々なプレーヤーがそれぞれの役割を果たしながら地域の経済、国の経済を支えている。金融システムの一翼を担うメガバンクにとっても極めて重要な関心があるテーマである」と語っている。


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