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第6904・6905合併号

【主な記事】

郵便局ネットを更に活用
[日本郵政]長門社長 
金融株売却益 成長投資に

 日本郵政の長門正貢社長は9月29日の記者会見で、同社株式の第2次売却について「マーケットの環境を損ねることなく円滑に売り出すことができた」と評価した。10月1日に迎える民営化10年を振り返り、「最大のイベントは2015年の株式上場」とした上で「企業価値を向上させるための一つの登竜門をくぐったと感じる」と述べた。また「ゆうちょ銀行、かんぽ生命株式の売却による連結ベースでの減収分を補うためには、株主還元よりも広い意味での前向きの投資を先行させる」との方針を明らかにした。

 9月29日までに株第2次売り出しのプロセスが完了したことについて、「株主への還元を強化するとともに、今後の政府保有株式売却に関わる需給への影響を緩和する観点から、約1000億円の自社取得をした。十分な需要が積み上がったと認識している。一昨年11月のIPO時には3社で合計1.4兆円という規模だったが、今回は1銘柄で1.3兆円と前例のほとんどない大規模な売り出しとなったが、マーケットの環境を損ねることなく、すべてを円滑に売却できたと評価している」と述べた。
 先般行ったロードショーについては「ユニバーサルサービスを完遂しつつも郵便局ネットワークをどう活用して、日本郵便という子会社をどのように筋肉質な企業に立ち上げていくのかというのが一つ。それからゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式売却を今後どのように進めていくのか、そして株式売却の代金をどのように日本郵政として使おうとしているのかというのが2点目だ」と投資家から寄せられた問いを示し、「直接の対話によって、私たちの将来に向けた思いを伝えることができたと思う」と手ごたえを語った。
 また、民営化10年を迎えるが「最大のイベントは、2015年の株式上場だった」とし、「上場によって、株主という経営に対する意識の非常に高いステークホルダーが加わった。しっかりとしたガバナンス、透明性、説明責任といったことが、更に求められるようになり、企業価値を向上させるための一つの登竜門をくぐったと感じている」と意義を語った。
 さらに、変化の激しい経営環境への対応については「超低金利の継続、超高齢化社会の進展、インターネットの発展とeコマースの飛躍的拡大など、日本郵政グループを取り巻く環境は大変厳しいが、こうした変化に対して、相応に対応ができているものと感じている」と評価した。
 ゆうパックのサービス改善については「歩いて5分の範囲で受け取り可能なアクセスポイントの整備を目指しており、その一環として、全国182か所での“はこぽす”利用を可能とした。今年4月からは通販ECサイトから差し出されるゆうパックを、郵便局、コンビニエンスストア、“はこぽす”で受け取れるとポイントを付与するキャンペーンを実施しており、この期間を来年3月末まで延長するとともに、郵便局で直接受け取る場合は10ポイント引き上げて、60ポイントに変更する」と説明した。
 記者からの「ゆうちょ銀行とかんぽ生命の(株式売却で)完全民営化の時期はいつになるのか」との問いには、「今まで当社の株式を政府が売るというプロセスに専念していたが、これもきちっと終了させて、しかるべき時が来たら決断したい。タイミングについては、まだお話できる内容のものはない」とした。
 「現時点で描いている成長戦略は」には、「打ち出の小づち一本で全部支えられるような経営環境ではないと思っている。やれることをできるだけ多くやり、集合体としてのパフォーマンスを向上させたい。ゆうちょは昨年度の実績で言えば、売り上げの94%は運用収益、残りの6%が手数料収益ということから、これを磨くしかない。低金利のため、海外の外債等で運用することになると思う。かんぽも同様で、保険業務の売り上げが6割、4割が運用収益なので、それぞれを極めていく」とした。
 日本郵便については「苦渋の決断だが、はがきの10円の値上げや、ゆうパックの料金体系を来年の3月1日から引き上げたりするなど、売り上げのアップを郵便物流事業で図っていくことも考えている。将来的にはロボット、自動運転、ドローンなどの技術を使って経費削減を図りたい」と述べた。
 不動産事業等についても「売り上げを増やしたい。路価ベースで2.6兆円の不動産を持っており、土地だけでみると1.5兆円の経営資産がある。この眠れる資産も有効に活用できると思っている。あらゆることに手を尽くしスピードアップして売上増大や経費削減に取り組みたい」と強調した。
 「金融2社の株を売った資金をどのように使うのか」に対しては、「投資家の中には、金融2社の株式売却によって郵政グループの収益が落ちるのは困るという声がある。連結ベースでの減収分をカバーするものに使いたい」とした。
 これについては「有効活用する方法は2つ。
 一つ目は必ずしもM&Aである必要はないが、それを含めた広い意味での前向きの投資だ。もう一つは株主に還元するということだ。配当でいくのか、自社株買いでいくのか、いろいろと方法論があると思うが、企業としては、長期的に見ると一つ目の投資の方が意味はあるので、そちらの方を先行していきたい」と語った。


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