「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6891号

【主な記事】

支援措置、引き続き検討
ユニバ検討会 議論を整理

 総務省の「ユニバーサルサービスに係る課題等に関する検討会」(座長:村本孜・成城大学名誉教授)は6月27日、これまでの議論の整理を公表した。日本郵便をはじめ、関係省庁にもヒアリングを行いながら、ユニバーサルサービスの課題やコスト算定について、活発な議論が交わされてきた。国などの支援措置やコスト負担の在り方については引き続き検討。構造的な赤字を抱える第4種の政策的低廉料金は、データが整っていないものも多く、引き続き定期的な確認・検証が行われることになった。

 検討会では「現状と課題等に関するワーキンググループ」(主査:米山高生・一橋大学大学院商学研究科教授)と「コストの算定手法等に関するワーキンググループ」(主査:関口博正・神奈川大学経営学部教授)の2つが設置され、課題を整理。検討会での意見も反映しながら、議論の整理を行った。検討会と2つのWG合わせて25回にわたり開催された。
 検討されたのは「第1種・2種郵便サービス」「第3種・4種の政策的低廉サービス料金」「郵便法に定める認可・届出」「郵便局ネットワークの維持」「ユニバーサルコストの算定」の5つのテーマ。
 中でも多くの時間が費やされたのは「第4種の政策的低廉サービス料金」。関係する文部科学省、厚生労働省、農林水産省にヒアリングを行った。利用状況などデータの提出や説明が行われたが、必要性や妥当性を判断するだけの情報が不足しており、廃止や値上げという結論には至らなかった。
 第4種の政策的低廉サービスについての整理事項として、諸外国では低廉サービスが採られていない通信教育や植物種子、学術刊行物についてはその必要性や妥当性を定量的なデータに基づき、速やかに確認・検証することが明記された。また、日本郵便に対しても「制度の趣旨に反しない範囲で経営判断による見直しの可能性」についても留意することになった。
 検討会では、特に民間事業者が内部補助でコストを負担していることが問題視された。各省のヒアリングの際には、民間事業者の負担の在り方についても考えてもらうよう米山WG主査が各担当者に伝えたが、各担当者は制度の必要性は強調するものの、コスト負担については予算措置が困難などを理由に政策的低廉サービスの必要性を訴えるに留まった。
 検討会やWGでは判断に必要な情報が提出されないことも問題視され、各省には、引き続き必要な情報の提出を求めており、今後も定期的な確認や検証は続ける。
 関口構成員(情報通信行政・郵政行政審議会電気通信事業部会ユニバーサルサービス委員会専門員)は「関係省庁へのヒアリングを行い、その必要性を確認できたことは、大きな意義があった。窓口である関係省庁の意向を確認する作業を定期的に行い、分析していくことは高く評価したい」と述べた。
 郵便法に定める認可・届出については、日本郵便のヒアリングの中で負担になっていることが分かり、可能なものについては速やかに改正が行われた。
 3月末に省令や郵便法施行規則が改正されたのは、①発行する郵便切手などの金額の認可が不要となる②これまで法令で定めのなかった郵便事業の収支状況区分を明確化した(特殊取扱は義務的特殊取扱と任意の特殊取扱の2区分に、国際郵便は通常、小包、EMSの3分類)③郵便認証司の兼業承認を不要とする範囲を明確化した④郵便の試行サービスは、郵便約款の認可不要の範囲を地域と期間の両方に限定していたが、これを期間のみとした(期間さえ限定されていれば全国展開は郵便約款の認可を受けずに実施できる)⑤速達などを除いた任意特殊取扱郵便で新サービスを始める場合は事後届け出でよい。
 今回の整理では、今後も改正が必要なものは継続的に検討することにした。また留意事項として、働き方改革が実行された場合、特にサービス水準などユニバーサルサービスの提供への影響とそれに応じた見直しの可能性が挙げられている。
 郵便局ネットワークの維持については、日本郵便から「現在の仕組みでこのまま過疎地の郵便局についてユニバーサルサービスを維持し続けることが可能なのかは重要な課題」という意見が示された。議論の結果、ユニバーサルサービスの安定確保のため、国などによる支援措置の必要性とコスト負担のあり方を引き続き検討することになった。郵便局ネットワークの積極的な活用も合わせて示され、地方公共団体の事務取扱やマイナンバーカードで住民票や印鑑証明などが引き出せる「キオスク端末」(コンビニなどに普及している)の導入、みまもりサービスなどを進めることも盛り込まれた。中長期的な課題として、現行制度や運用の見直しについても引き続き検討される。
 長田三紀構成員(全国地域婦人団体連絡協議会事務局長)からは「当たり前にある郵便をユニバーサルサービスの視点から考えた時に、どこまで何を求めるか。利用者側からの広い意見の集約が必要。都市、過疎地などいろんな所に住んでいる人、いろんな立場の人の意見を聞くことが大事」、大平展子構成員は「私は過疎地に住んでいるが、住民がどの程度ユニバーサルサービスを理解しているのか。当たり前にあったものがコストを考えると当たり前ではなくなるそのことを地域の人が理解するのが大事」と述べている。
 「第1種・2種郵便サービス」では、郵便料金の見直しに対して、はがきの利用状況や定形外郵便物の再配達の状況を注視することやその状況を踏まえてサービス水準や料金も含めて総合的な検討を行う。年賀はがきをもっと魅力的なものになるように取り組むよう明記された。
 ユニバーサルコストの算定については、2015年9月28日の情報通信審議会「郵政事業のユニバーサルサービスの確保と郵便・信書便市場の活性化方策の在り方」の答申で示されたコスト算定モデルと試算について検討した。「モデルは一部改善が必要だが、事業実態を踏まえた試算として傾向をみるには支障がない」と結論づけた。
 郵便モデル・郵便局窓口モデルは、赤字の地域・役務の赤字総額の算定に適しているNAC法を採用。「赤字地域や赤字サービスをユニバーサルサービスコストとするNAC法は国民・利用者にわかりやすい」というのがその理由。郵便モデルについては、PA法による算定も可能とした。
 算定主体は総務省で、同コストについて国民・利用者に理解してもらうことを目的に不定期に行うことにした。郵便・物流ネットワークの再編を終えた後のデータを基に来年度以降に算定する。
 その際には同検討会で示した方向性を基に、改善モデルを用いて算定する。同検討会や情報通信審議会(郵政政策部会)など第三者的立場から同算定を評価する。日本郵便にはデータの提供が求められている。
 竹内健蔵構成員からは「2つのWGを分けて考えることはできない。長期的にユニバーサルサービスを考えるに当たり、2つを組み合わせて考えていく。また国民の理解も強調しておきたい。郵便局は空気のような存在で、中身やコストはよくわかっていないが、空気が無くなったら困る。郵便サービスについて国民にいかに関心を持ってもらうかが大事」。
 最後に安藤英作・郵政行政部長は「検討会は報告書というよりは具体的なアクションをしていただけた。大きなものとしてははがきの値上げは昨年12月の議論が要因となり実現した。お礼を申し上げたい。6月の値上げは23年ぶりのことだが、販売枚数が減っている中での値上げはこれまでになかったこと。どのような影響があるのか、予断を許さない。またコスト算定ではモデルなどを検証していただき、今後は新しいデータを盛り込んだ新しいユニバーサルサービスコストを算定していただくことになるが、重要な側面で大きなテーマでもある。経営環境が変わっていく局面でもあり、その中でユニバーサルサービスを維持していく観点からしっかり取り組んでいきたい。郵政の問題は空気のような存在から広く議論をしていただける存在になったと思う」と述べた。
 「ユニバーサルサービスに係る課題等に関する検討会これまでの議論の整理」は総務省のホームページで公表されている(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu14_02000068.html)。


>戻る

ページTOPへ