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第6891号

【主な記事】

[日本郵政]既存経営資源の活用に意欲
長門社長 みまもりサービス10月から全国展開


日本郵政の長門正貢社長は6月28日の記者会見で、「日本郵政株式の2次売出は株価が1次売出を下回る状況ではできないと思われる。M&Aなしに既存の経営資源を活用することで企業価値を向上し、株価を上げることは可能か」との記者団の質問に対し、「既存の経営資源の活用でも十分成長戦略は示せる。プラスアルファで文化やシナジーも合い、価格も見合った企業があれば、M&Aも考えたい」と語った。また、10月に開始予定のみまもりサービスは、現場の業務フローなどを精査した上でタブレットの活用と健康増進サービスは見送り、堅実な業務フローのもとで採算ベースに乗るやり方で進める方針を示した。

 長門社長は冒頭、定時株主総会の状況や金融2社の新規業務の認可、郵便局のみまもりサービスの方針を記者団に報告。 「6月20日にゆうちょ銀行、21日にかんぽ生命、22日に日本郵政の順に横浜アリーナで株主総会を開催した。豪トール社の問題を陳謝し、決意を表明した。株主の方々から、一定の評価や改善への期待、営業方法や商品性に関する要望や問いかけなどがあった。成長への叱咤激励と謙虚に受け止め、企業価値向上に活かしたい」と意欲を示した。
 会見では、ゆうちょ銀行の新たな地域活性化ファンドへの出資として、しがぎんリース・キャピタル、山田ビジネスコンサルティングが共同で設立した「しがぎん地域企業の持続的成長につなげる本業支援ファンド投資事業有限責任組合」にLP(有限責任社員)としての出資を公表した。長門社長は「ゆうちょ銀行が参加する地域活性化ファンドで5件目だが、近畿地方では初めて」と説明した。
 また、「かんぽ生命は、第一生命保険の経営者向け介護保障定期保険『TOP PLAN エクシードU』(5年ごと配当付生活障害年金定期保険)の受託販売を6月30日から全国の支店等で開始する」と発表するとともに、かんぽ生命の三つの商品の見直しは現在、販売に向けた社内準備を進めており、10月以降郵便局やかんぽ生命の支店等での販売を予定していると語り、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の新規業務の認可に対して感謝の意を表した。
 さらに、10月にサービスの提供を開始予定の「郵便局のみまもりサービス」の内容について①月1回局員が訪問し、生活状況を家族や自治体に伝える「みまもり訪問サービス」②毎日指定時間に自動音声電話をかけ、体調確認結果を家族等報告先にメールで知らせる「みまもりでんわサービス」の二つの基本サービス③家族などからの要請で何かあった場合に警備会社がご利用者宅に駆けつける「駆けつけサービス」のオプションサービス―3種とし、8月から全直営郵便局で申込を受付けることが決まったことを報告した。料金の詳細などは7月下旬に公表される予定となっている。
 長門社長は「超高齢化社会の中で、郵便局の強みを活かして地域貢献できる郵便局らしいサービス。タブレットの活用や健康増進サービスは現場の業務フローなどを精査する中で採算が難しいため事業化を見送り、一部自治体での試行に留める。今後は競合他社の動向も踏まえ、アプリケーションやデバイスを含めたサービスの在り方について研究を進める」と見通しを示した。
 記者団からの「株主総会の出席者が昨年に比べて少なかったが」との質問に対し、「ゆうちょ銀行は昨年886名で今年は607名、かんぽ生命は266名から219名に、日本郵政は1194名から838名。議決権行使比率は他上場企業に比べそん色はなく、ガバナンス上の問題はない。第一生命も上場初年度から2年目にかけて減ったと聞く。お土産などを配布してはとの声もあるが、株主の方々への還元は配当で返すのが筋。多くの株主の方に来ていただけるよう工夫したい」と意欲を語った。
 「口座貸越サービスは業績にどの程度貢献する見通しか」には、「毎年30万口座くらい実績が作れるのではないか。取扱開始5年後の平均残高は約800億円を想定し、その後は事業の拡がり次第と考える。スルガ銀行住宅ローンの媒介業務はゆうちょ銀行直営店のみの扱いだが、口座貸越サービスは直営郵便局全てが参画できる。地方創生に貢献する日本郵政グループにふさわしいビジネスモデル」と強調した。一方、「野村不動産ホールディングス買収白紙の受けとめは」との質問には、「本件については、当社が発表したものではない」と答えるにとどめた。
 「今後のM&Aの方針とは」との問いかけには、「社外取締役を含めて経営課題は様々議論している。時間軸は分からないが、最終的にはゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式を売却し、日本郵便だけが日本郵政の主要子会社になる。三事業のユニバーサルサービスやグループ一体経営への影響を勘案し、ゆうちょ銀行とかんぽ生命が経営の自由度を得るために当面は5割程度の売却を目指すが、完全売却後は連結から金融2社の分が消える。現状、日本郵政は時価総額が日本で10位前後。2017(平成29)年度連結当期純利益の見通しは4500億円。金融2社の株式11%売却を反映すると4000億円の当期純利益を見込んでいるが、その内数(条件を付加した場合の部分値)として日本郵便の当期純利益は130億円。日本郵便だけで時価総額約6兆円と約40万人の従業員を守るのは大変」と厳しい現状にも触れた。
 「金融2社も郵便局ネットワークあってのビジネスモデル。日本郵便の売上約3兆円のうち、金融2社から年間約1兆円の手数料をいただく。郵便・物流事業で約1兆9000億円、不動産事業で約260億円、物販事業で約1300億円の売上。従って、ユニバーサルサービスを実行し、郵便局ネットワークを維持した上で売上を伸ばし、経費を削減して、子会社として残る日本郵便を筋肉質な強い経営体へと改善していくことが重要な経営アクションになる。売上を伸ばす手段として、シナジー効果が見込める企業であればM&Aは考え続けたい」と意向を示した。
 「日本郵政株式の2次売出は株価が1次売出を下回る状況ではできないと思われる。M&Aなしに既存の経営資源を活用することで企業価値を向上し、株価を上げることは可能か」との質問に対しては、「M&Aなしに生きていけないとは言っていない。既存の経営資源の活用だけでも十分成長戦略は示せる。厳しい金融情勢の中で、ゆうちょ銀行は含み益(その他有価証券の評価損益)を約2000億円増やしている。収益の90%以上は運用益で、6%程度が手数料収益。二つの収益源を深掘りできるし、地域活性化ファンドも将来はGP(ファンドの中心者となる無限責任社員)としての参加の思いもあり、伸びしろはある。かんぽ生命も保険契約数は下降ラインから脱却できていないが、新契約保険料の水準は維持できているし、運用でもポートフォリオの半分を国債の投資で行っている。上ぶれチャンスはある」と強調した。
 「何よりも日本郵便。年間の売上は3兆円。経費も3兆円。経費の3兆円を1割削るだけで3000億円生み出せる。三事業のユニバーサルサービスと郵便局を守った上での話だが、経営者の眼で既存の経営資源の活用だけでも十分成長戦略を示せる。プラスアルファで文化やシナジーも合い、価格も見合った企業があれば、M&Aも考えたい」と語った。
 「金融2社の株式の売出に必要な条件とは。上場した当初、株式保有割合50%までは早期に処分する方針を打ち出していたが」との問いかけに、「東日本大震災からの復興財源を確保するため優先すべきは日本郵政株式の売却。3月には引受証券会社が選定され、準備されている。日本郵政株式の2次売出が完了した段階で三事業のユニバーサルサービス維持や株式市場などいくつかの壁はあるが、市場環境が整えばいつでもあり得る」と指摘した。
 「ゆうちょ銀行とかんぽ生命の限度額再引上げも課題の一つと思うが、地域金融などもマイナス金利を背景とする中で、今後の方針などは」との質問には、「以前に比べ、全銀協や地銀協の方々にとってゆうちょ銀行の存在感は変わったのではないか。謙虚に考えなければいけないが、限度額引上げ後の貯金残高の推移をモニタリングしてきたが、他の銀行と比べて相当低かった。資金シフトは起きていない。口座貸越サービスも同種サービスを提供する銀行や信用金庫はわずか。常識の範囲内であれば目くじら立たせる話にはならないと思う」と見方を示した。
 通信文化新報の「日本の将来に向け、介護事業などにどのように関わる方針か」には「過疎地や離島含めて約2万4000の拠点が全国にある。郵便局ネットワークの活用として、先般、日本郵便と日本生命が一部郵便局窓口にTVシステム等の機器を設置し、インターネットを通じた対面サービスを行う実証実験を開始した。また、郵便局に地方銀行のATMも設置された。拠点があるからこそできることだ。ボランティアではないが、著しい損失がなければ地域社会に貢献していきたい。その取組みの中で新たな技術も生まれてくるだろう。介護も含めて明確な形を示すのは時期尚早で、貢献の姿は歩きながら考えたい」と答えた。


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