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第6890号

【主な記事】

日本郵政グループ 上場後2回目の株主総会
新たな成長戦略を探る


 日本郵政グループの日本郵政、ゆうちょ銀行とかんぽ生命は6月20~22日、上場後2回目となる定時株主総会を横浜アリーナで開催し、3日間で延べ1664人の株主が出席した。日本郵政の長門正貢社長は中期経営計画の中間に位置する2016(平成28)年度はトータル生活サポート企業の実現に向けた飛躍の年だったとし、収益力拡大や生産性向上、上場企業としての企業統治と資本戦略に重点的に取り組んだ経過や成果を株主に報告。その上で豪トール社に係るのれん代等の減損処理を受け、連結最終赤字となったことを「大変重く受け止め、誠に申し訳なく思っている。信頼を取り戻せるよう業績回復に努める」と陳謝した。株主からは新たな成長戦略に対する要望も見受けられた。

 日本郵政の株主数(17年3月末時点)は約50万人で、ゆうちょ銀行とかんぽ生命を合わせると120万人以上に上る。日本郵政の発行済株式数は45億株。うち、市場に流通するのは約5億株となるが、その中での個人投資家保有割合は50%程度(3月末)となっており、一般企業の個人株主比率20~30%と比較し、現在も高い割合を示している。
 上場3社の最終日となった6月22日の日本郵政の株主総会には838人が出席。総会では、かんぽ生命の植平光彦新社長と、向井理希新取締役の新任2名を含む取締役15名の選任が承認された。
 株主総会では冒頭、長門社長から2016(平成28)年度の郵便・物流、金融窓口、国際物流、銀行、生命保険の事業別に経過と成果が説明された。郵便・物流事業ではゆうパックなどの受取利便性向上やゆうパケット基本運賃新設、地域区分郵便局3局新設など物流ネットワーク再編を推進。金融窓口事業は金融2社と連携した研修による営業力の強化、定額貯金再預入や投資信託販売など預かり資産重視の営業展開、簡易生命保険誕生100周年施策を契機とした新契約拡大などが報告された。
 ゆうちょ銀行は手数料ビジネス強化、運用の高度化・多様化のほか、このほど認可された口座貸越サービスなどの新規業務、かんぽ生命は基幹系システム更改や保険金支払い審査業務へのIBM Watoson導入、運用による安定的な利ざや確保などが説明された。それらの結果、グループの総資産は現在、計293兆1625億円、負債は計278兆2079億円。純資産は計14兆9545億円となっている。
 株主からの「損益計算書を見ると、逓信病院とかんぽの宿合わせて約80億円の赤字。赤字が常態化しており、黒字化に向けた努力をしてほしい」との要望に対し、福本謙二常務執行役は「医療業界は全体的に厳しい経営環境にある。地域医療との連携などによる増収対策や調達の効率化による経費削減などに取り組むことで経営改善を進めたい。逓信病院は2007(平成19)年の民営化時は14か所あったが、現在は7か所。かんぽの宿の運営も大きな経営課題。シニア層の方々の利用が多いが、今後は若年層の方々へのPRにも力を入れ、顧客基盤の拡大を図りたい」と前向きな姿勢を示した。
 「業績回復もそうだが、株価が上昇するための具体的な施策を教えてほしい」との質問に、原口亮介専務執行役が「現在の株価水準を謙虚に受け止め、企業価値向上に全力で取り組む。全国の郵便局ネットワークを通じて三事業を中心に役立つサービスを提供することが基本。郵便・物流事業は今後成長が期待できるゆうパックやゆうパケットの取扱拡大に注力する。ゆうちょ銀行は運用の高度化・多様化に加えて、ATM手数料や投信販売手数料などの手数料ビジネス強化、かんぽ生命は保障性商品の販売強化に取り組みたい。また、業務提携を通じた成長分野への投資も引き続き検討したい。社員一同で企業価値向上に努める」と応じた。
 長門社長は「グループは日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の連合体で動いているが、それぞれが成長に向けてやるべきことを実行するのが全体の成長戦略につながる。郵便局ネットワークをフル活用するビジネスモデルだ。ゆうちょ銀行は約179兆円の貯金を保有しているが、93%は約2万4000局の郵便局で集めている。かんぽ生命に関しても新規契約のほとんどを郵便局で引き受けており、郵便局ネットワークはグループの事業運営の根幹」と強調した。
 「株主総会の通知には、取締役会への出席状況などが記載されているが、現場に行った回数を示す方がよいのではないか。その方が(企業価値向上に結び付けられるような)アイデアが生まれる可能性が高いと思う」との問いかけには、鈴木康雄上級副社長が「会社法上の規定に則って記している。また、日本郵政の役員は当社や事業子会社施設の視察などフロントラインに積極的に足を運んでいる」と強調。長門社長は「フロントラインに行ってないわけではない。郵便局ネットワークはグループの命綱のため、フロントラインの貴重な意見を吸収していきたい」と語った。 
 また「日本では数千本の投信が販売されていると聞くが、まともな商品はわずかだと思う。郵便局で販売している投信の中にも質の悪い商品があるのではないか。そのような商品は、郵便局では販売しないでほしい」との要望には、田中進常務執行役(ゆうちょ銀行副社長)が「貯蓄から投資へとの資産形成が促される中で、いわゆる適合性の原則に沿い、お客さまのニーズと合致する場合は投信を資産形成の選択肢の一つとして勧めている。郵便局で販売する商品は、内容などを慎重に検討した上で選定している。貯金とは異なり、元本が変動するという商品リスクをお客さまに十分理解いただけるように、販売体制にフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)を浸透させて、多様な資産形成ニーズに対応したい」と意欲を示した。 
 「働き方改革」に関し、「採用方針や賃金体系における将来の構想を教えてほしい。今後民間企業として競争にさらされる中で、体系も民営化以前のものから考え直す必要があるのではないか」との問いかけには、衣川和秀専務執行役が「民営化後新しい形態で採用活動を行っている。『誠実、高い志と情熱』をグループ共通の採用方針に掲げている。来年4月は約5600人の新卒を採用したいと考えている。また、2015(平成27)年度から新たな人事制度と給与制度を導入し、社員の努力が給与や手当に反映される仕組みにした」と語った。
 さらに「物流業界では週休3日制を打ち出した企業がある。金融機関の中には在宅勤務を推奨する企業もある。働き方改革によって、社員の生産性が向上し、郵政のブランド価値、企業価値向上につながると思うが、どのような取組みを検討しているのか」には、衣川専務執行役が「働き方改革は今後のグループ成長と発展に必須。週休3日制について、日本郵便の配達は1日8時間で終えられるように設定している。また、ゆうパックなど朝から夕方まで対応が必要な業務は、早番遅番の二つのシフト体制で1日の所定労働時間数8時間内となるよう対応しており、現時点で導入の予定はない。今後は、勤務時間が長過ぎる問題などにも対応する。介護のための短時間勤務制度や育児で離職した社員の再雇用制度など多様な働き方を選択できる施策も順次導入していく。JP労組の意見も聞きながら社員の多様なニーズに柔軟に対応する施策を展開したい」と強調した。
 「手紙を書く人が減少する時代にあって、どのような施策を検討しているのか」との質問には、諫山親常務執行役(日本郵便執行役員副社長)は「IT化の進展などで手紙やはがきは減少傾向にあるのは事実。手紙振興など各種施策によって、郵便事業の維持拡大に引続き取り組んでまいりたい」と説明した。
 このほか、一部で白紙と報じられた大手不動産企業買収に関して、「再度検討することはあり得るのか。また、買収後の戦略についてはどのような検討をしていたのか」との質問に、原口専務執行役は「本件は当社が発表したものではなく、現時点において買収を検討している事実はない。ただ、日本郵政グループは有効活用できる不動産を多数所有しており、今後グループの事業の一つの柱として、不動産事業を育てていきたい」と答えた。


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