「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6889号

【主な記事】

ユニバ維持税制支援
自民提言 政府は責任持ち実現を


 自民党は、三事業のユニバーサルサービスを確保する政府による支援措置の本格協議を開始した。郵政事業に関する特命委員会(細田博之委員長)が日本郵政グループの収益改善の具体策をまとめた「提言」に初めて明記されたもので、手始めに税制措置などを検討する。政府の支援は改正郵政民営化法7条3項で規定されたものだが、安易な支援は日本郵政グループの経営努力を阻む観点から慎重な対応が進められてきた。しかし、低金利や豪トール社の問題を受けて、現状のまま維持ができるかとの問題意識が高まり、結論に至った。特命委は6月22日、菅義偉官房長官に提言を申し入れた。

 6項目から構成される「提言」は、形式上は2015(平成27)年6月に作成されたものと同じだが、日本郵政グループを取り巻く環境変化を踏まえ、加筆や削除などで改められた。上場を起点とする株価の推移が上場時を超えない中、豪トール社の減損処理を受け、2017(平成29)年3月期連結決算は民営・分社化後で初の赤字を計上。郵政支援の国会議員の間では、このままで三事業のユニバーサルサービスを担保できるか、との疑問が高まっていた。
 ユニバーサルサービスコストは長年、形を変えながら議論が続けられているが、未だ根本的な解決には至っていない。特命委役員会では、政治の出過ぎた姿勢は慎むべきとの基本姿勢を共有した上で、今こそユニバーサルサービス維持のあり方を考えることが最善の支援ではないかと思いが一致した。
 例えば、コンビニエンスストアなど一般の企業は収益が上がらない過疎地や離島では撤退せざるを得ないため、その地域を守りきることはできない。郵便局はユニバーサルサービス義務が課されているがゆえ、地方の隅々まで日本の国土を守ることができるとの考えから、6項目のうち「郵便局ネットワークと地方創生」の部分に「郵政事業のユニバーサルサービスを低下させないための郵便局の維持については、税制などによる何等かの政策が必要になる。今後、検討と協議を加速すべき」との文言が加筆された。
 政府が絡んでいる理由を「日本郵政の発行済株式の80.5%を政府が保有する中で、低金利の影響を受けて金融2社の収益力が低下し、グループ全体の収益力に影響を及ぼしていることに政府の責務が必要」と強調している。
 日本郵政グループの企業価値を高めるために「経営努力が求められることはいうまでもないが、国民のため、将来にわたって必ずユニバーサルサービスは守らなくてはならない」と指摘。「全国あまねく一様にサービスを展開する仕組みの維持が求められ、追求しなければならない。政府には責任を持って実現に向けた努力を求める」とも明記した。
 改正郵政民営化法7条3項には「政府は、前条に規定(日本郵政と日本郵便に課せられた三事業のユニバーサルサービス)する責務の履行の確保が図られるよう、必要な措置を講ずるものとする」と記されている。
 柘植芳文参院議員は既に4月11日の参院総務委員会で「政府は日本郵政、日本郵便が黒字だから三事業のユニバーサルサービスが確保されているという答弁だが、コストを日本郵便が一義的に負担すべきなのか」と質していた。特命委幹事長の森山裕衆院議員は改められた提言を「今回のポイントは『何等かの政策が必要』という部分で役員の思いを結実させた」と説明する。
 一方、先般総会を行った民進党の郵政議員連盟総会(古川元久会長)は近々役員会を開催する。 公明党の郵政議員懇話会(斉藤鉄夫会長)は6月20日に役員会を開いた。民進党の奥野総一郎衆院議員は「本業で稼ぐことがまずは重要だが、さらなる新規業務を検討すべき。税制措置ならば固定資産税の特例措置も継続すべきだ」と強調。藤末健三参院議員は「フランスやイタリアは政府が郵便局ネットワーク維持のための支援をしている。日本でも地域の利用者を支える税制や予算措置など政府の支援が必要」と話す。
 公明党の斉藤鉄夫衆院議員は「過疎地の赤字局の人件費と運営費に消費税がかからないように、2017(平成29)年度は税制改正要望したが、引き続き検討となった。政策的な支援を行うのであればまずここからだと思う」と語った。
 提言には「ゆうちょ銀行の限度額」の項目もあり、郵便局以外に金融機関がない地域を考慮すると1300万円はまだ少ないため、次の段階で2000万円まで引き上げ、過度な預金獲得競争が起こらないことを確認した上で、最終的には完全撤廃すべきと求めている。ただし、預入限度額再引上げは必ずしも経営向上につながるものではなく、無利子の振替貯金が約10兆円存在する中で、再引上げによって有利子の貯金に移し換えられることになれば、経営負担の増える可能性があることも指摘した。
 前回の提言と同様、他の金融機関からの預金や預け替えを勧める営業行為は厳に慎むべきで、ゆうちょ銀行があくまで新規の預金の利便性を満たす範囲の預金などの受け入れに徹すべきと注意も促している。
 「かんぽ生命の限度額」の項目では、既に通計の不算入額(20~55歳で加入後4年経過し、健康体が確認できた被保険者の契約が対象)は2000万円まで加入できる仕組みになっているが、限度額1000万円の基本契約も引上げを検討すべきと提言した。
 「企業価値の向上」では、豪トール社の立て直しを図りながら、ゆうちょ銀行やかんぽ生命も金融の国際化に対応できるビジネスモデルを構築し、「日本の成長戦略に寄与する企業であることを望む」と期待を寄せた。
 かんぽ生命に対し、「他生保との協調による再保険の引受」などにも取り組むことで収益拡大を目指すべきと強調。同時に外国証券や金銭信託を通じた国内株式への投資割合の引上げなどで最適なポートフォリオを構築し、資産運用力を培うことを提案した。
 これらを成し遂げるためにエキスパート人材の確保と育成に取り組む必要性にも触れた。
 投資家や株主の目線は「資産規模ではなく、資産の運用力に注がれることを肝に銘じ、日本郵政グループ社員が総力で知恵を出し合い、企業価値を高めてほしい」と記している。


>戻る

ページTOPへ