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第6889号

【主な記事】

ゆうちょ銀行、かんぽ生命
新規事業、申請通り認可


 ゆうちょ銀行とかんぽ生命が3月31日に総務省と金融庁に認可申請していた新規事業が6月19日、申請通りに認可された。総務省で高市早苗総務大臣から両社に認可書が交付された。両省庁では、郵政民営化法に基づき審査をした結果「問題なし」と判断。意見を求められていた郵政民営化委員会も同様な意見を14日に両省庁に提出した。申請から認可まで約3か月弱とスピード感のある認可となった。ゆうちょ銀行の「口座貸越サービス」は2年後を目途に開始、かんぽ生命の「終身保険や定期年金保険などの見直し」によるサービスは10月以降に開始される予定だ。

 認可交付式が総務省大臣室で行われ、高市総務大臣がゆうちょ銀行の池田憲人社長、かんぽ生命の石井雅実社長に認可書を手渡した。
 高市大臣は「両社の認可ができたことをうれしく思う。特にゆうちょ銀行は前回の申請から4年以上が経過しており、昨年夏に何とか結論を出したいという強い思いを持っていた。現在の金融環境に合っているのかも含めて、池田社長の下で検討し新たな申請を決定していただいた。その尽力に敬意を表したい。両社ともに、これから、利用者の利便性向上や企業価値向上に向けて、今回認可した業務を実行していただきたい」と述べた。
 ゆうちょ銀行の池田社長は「今回の認可申請に際して①顧客本位の良質な金融サービスの提供②地域への資金の循環等③資金運用の高度化・多様化等の3点を基軸とする『今後のビジネス展開』を公表しているが、認可をいただいた新規業務も含め、今後とも全国の郵便局ネットワークの活用といったゆうちょ銀行の特色を生かし、お客さまや株主、地域社会等の期待に応えられるよう精一杯取り組みたい」とコメントしている。
 今回認可されたのは、ゆうちょ銀行は「口座貸越による貸付業務」「資産運用関係業務」(CDS取引・商品デリバティブ・短期取引、株式スワップ、リバースレポ・株式)、「その他の銀行業に付随する業務等」。
 かんぽ生命は「終身保険・定期年金保険・入院特約などの見直し」、第一生命の「経営者向け介護保障定期保険」の受託販売(6月30日取り扱い開始予定)に関する業務やサービス。
 ゆうちょ銀行の口座貸越サービスは初の個人貸付業務、かんぽ生命の定期年金保険の見直しによる商品は参入者がまだ少ない市場でのサービス開始となる。
 実際にサービスを開始するには金融庁の承認が必要だが、口座貸越サービスは販売態勢が整ってから承認申請する。資産運用関係業務とその他の銀行業に付随する業務等は同日、承認された。

民営化委「問題なし」
利便性の向上を重視
 郵政民営化委員会(第170回、6月14日開催)では、2015年12月の「今後の郵政民営化の推進の在り方に関する所見」を踏まえ、利用者の利便性の向上や適正な競争、業務遂行能力、業務運営態勢、経営の健全性の確保という観点から調査審議した結果、両社の認可申請は「問題なし」との意見をまとめた。
 各業界団体からは両社の新規業務について反対意見が寄せられたが、岩田一政委員長は「利用者の利便性を優先し、関係業界への利害調整よりも金融サービスの向上を本質的に重要なポイントとした。総務省・金融庁のヒアリングで郵政民営化法上の審査では特段の問題はないという報告を受けており、この2つを重視した」と述べた。
 また、岩田委員長は過去の2回の同委員会の所見を基に、それぞれの業務を審議した。2006年12月に「郵便貯金銀行及び郵便保険会社の新規業務の調査審議に関する所見」で「定型的業務を優先する」「市場価格が存在する業務を優先する」「ALM(資産負債総合管理)からみた緊要性の高いものから早期に実施する」「コア・コンピタンス(他社との競争のなかで、優位性のある中核事業)の業務優先」の検討・考慮すべき4つの準則が示された。
 更に2015年12月の「今後の郵政民営化の推進の在り方に関する所見」では「収益源の多様化・収益源の偏りの是正」「他社との連携により既存サービスを補強する」「他社との連携により地域活性化・地方創生など地域の期待に応える」「中期経営計画の展開、市場の期待に対応する」の4つの準則を加えた。
 委員会では、これら所見で示された準則に照らし合わせて2社の新規業務を審議した。ゆうちょ銀行の「口座貸越サービス」は、利用者の一時的な金融ニーズに応えるもので、利便性向上につながる上、定型的性格が強くコア・コンピタンスとの関係が認められる。「CDCや商品デリバティブ取引など市場運用関係業務(包括的認可)」は、収益源の多様化・経営の偏りの是正を通じて経営の健全性の確保につながると評価。
 「その他の銀行業に付随する業務等」は、まずは地域金融機関と税公金のとりまとめ事務をゆうちょ銀行の事務センターを活用し、事務を共同化することを予定しており「地域金融機関と連携することは、その地域の活性化の期待に応えることにつながる」「定型的性格が強くコア・コンピタンスとの関係性が認められる」としている。
 かんぽ生命の「終身保険・定期年金保険・入院特約などの見直し」については、低金利環境の継続や平均寿命の延伸、医療環境の変化に対応し、顧客のニーズに応えることで利用者利便の向上や経営課題の克服の助けとなり、中期経営計画で目指す高齢者サービスの充実の具体化につながるとした。第一生命の「経営者向け介護保障定期保険」の受託販売については、コア・コンピタンスとの関連が強い業務で、利用者の利便性が図られ、他の保険会社との協調関係の進展につながるなどと評価した。
 公正な競争について、岩田委員長は「口座貸越業務については、個人に貸付けるカードローンの市場は6兆円規模であることを配慮すると、5年後に累積800億円のゆうちょ銀行の口座貸越サービスは、適正な競争関係が維持できないという事態ではないと判断した」と述べた。昨年4月から引き上げられた限度額との関連についても「限度額が引き上げられたから競争関係にゆがみが生じるのではないと思う。ゆうちょ銀行は住宅ローンや個人貸付けを取り下げている。限度額が引き上げられたのでこれを認めないということではないと考えている」と公正競争との関係を明確にした。
 また、ユニバーサルサービスとの関連については「すべての郵便局で扱うので、ネットワーク維持の観点からもユニバーサルサービスにも十分応えるものではないかと思う」と述べた。
 かんぽ生命の定期年金保険の見直しは「トンチン性を高める仕組み(死亡時の支払い原資を生存者の年金原資に充てる仕組み)が導入されており、見直しの範ちゅうではない。定期年金保険市場に大きな影響を与え、競争関係を歪める」と生命保険協会から反対意見が出されていたが、岩田委員長は「顧客のニーズに応えることを重視した」と述べた。
 公平な競争については「低金利で平均寿命が延びて、他社も新商品を開発していくことは広い意味で競争。すでに他社がサービスを提供しており、かんぽ生命が最初に商品を出すわけではない。公正な形で行われていることが重要」という意見。
 反対意見の多くが「完全民営化の具体的な道筋が示されておらず、公平・公正な競争が確保されない状況が続いていること」を挙げているのに対して、岩田委員長は「ユニバーサルサービスの維持が課せられている中で、民営化していくことを手探りで行っていると思う。以前の民営化法では、時期が明記されていたが、現在は明記できない状況にあると思う」と述べている。
 口座貸越サービスについて、すでにサービスしているカードローンに対しては過剰融資の問題も発生しているが、その対策として委員会では、今回まとめた意見の中に留意事項として、利用者に対して分かりやすい丁寧な説明と注意喚起について明記した。その内容は「必要な注意喚起を行う態勢が十分に確保され、ゆうちょ銀行と郵便局に対する信頼に応えるものとなることが必要」というもの。ゆうちょ銀行では極度額を定めており、当面は50万円程度(契約1年目は30万円)を想定している。
 かんぽ生命の新規業務に対しても「業務遂行能力・業務運営態勢が整えられ、利用者保護やリスク管理に支障がないよう継続的に確認する」という留意事項が付いている。


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