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第6885号

【主な記事】

公益性の効率的発揮を
郵便局は地域拠点 オール郵政で議論へ

 郵政事業の将来に向けて、オール郵政体制のもと「郵便局の在り方」を考えようとする機運が高まりを見せている。中央大学法学部の宮本太郎教授は「約2万4000の郵便局が今後50年生き延びていくのなら、日本社会も持つ」と指摘。また、東海大学経済学部の立原繁教授ら7人の大学教授は「人口減時代に向かう地域社会と郵便局のあり方研究会/JP総研」を発足し、「地域と共に歩む郵便局をめざして」と題する報告書を2016(平成28)年に発行した。今後、全国展開するみまもりサービスも他社より優位性を保つサービスとして完結させるために、金融と物流機能をより合体させる仕組みも求められている。ネットワークを限りなく活かす議論が注目されてきた。

 先進国の中で最も早く少子高齢化社会が進むと言われる日本では、田園回帰の現象も起きているものの、依然として東京一極集中が進んでいる。そうした中、1871(明治4)年から地域の有志として地域貢献に取り組んできた特定郵便局長の流れを汲むエリアマネジメント局長中心に構成される全国郵便局長会(青木進会長)と、組合員一人ひとりが地域社会の一員として地域密着型の運動を進めるJP労組が、共通課題の解決に向けて対話の必要性を感じ始めている。 
 5月12日にJP労組が東京都江東区のTOC有明で開催した「福祉型労働運動/JP smileプロジェクト全国フォーラム」で講演した中央大学法学部の宮本教授は「内向きの話かもしれないが、50年後も約2万4000の郵便局が生き延びるなら、日本は持つと断言しても差し支えない。郵政事業は日本社会が生き延びていくための試金石。地域を外とつなぎ、地域内の人々を結びつける役目を果たしている」と郵便局の存在意義を改めて強調した。
 宮本教授は社会保障・人口問題研究所の人口推計から「日本の人口が初めて1億人を超えた時は、65歳以上とそれ以下の比率は10対1だったが、2008(平成20)年をピークとする人口減少の中で、今後、1億人を切る時は1対1になる。若者に重量上げをしながら山道を歩けと言っているようなものだ。地域によって人口の減り具合に大きな差が出る局在化は、郵政事業に非常に関連が深い」と指摘した。
 社会保障支出は年々増えているが、貧困率(所得が平均値の半分以下の人の割合)も高まっている。社会保障支出が高齢者の年金中心に重きが置かれ、特に大企業に勤める厚生年金加入者の年金が増えているが、非正規雇用増が実態となっており、今後の年金に及ぼす影響は大きい。連合は多様な働き方を通じて社会に参加する『働くことを軸とする安心社会』を提言。現金給付ではないが、現役世代が元気に学び、子どもを産み育て、働き続けることを支援する安心社会のビジョンで、教育や失業、働き方、家族、退職などを雇用に結びつける架け橋を提示した。
 宮本教授は「郵政事業の公益性はそれら架け橋へのサポート役として重要なポジション。民営化されたから公益性を失うのではなく、公益性を効率的に発揮する条件が整ったと考えるべきだ。震災時の避難所で地域の方々の顔が分かるのは郵便局長や社員。地域や社会と一体的に地域づくりを本格的に進めなければならない時代になった。拠点をどこまでコミュニティ全体を守れるものにするか。単に機能を集めるのではなく、人と人をどうつなげるかが重要」と強調した。
 また「政府が地方創生で着目する取組みは主に小規模自治体。地域づくりは①小さな福祉拠点②共生型ケア③ユニバーサル就労④生活困窮者自立支援制度―の4点がキーワードだ」といくつかの事例を紹介した。
 鹿児島県の大隅半島、鹿屋市串良町柳谷集落は人口300人弱の高齢化集落だが、焼酎「やねだん」を開発し、若者を呼び込むために芸術家たちの工房に適したおしゃれな町を作り上げた。人口4万人程の島根県雲南市は、以前縦割りだった公民館やPTA、自治会、消防団を集めて地域自主組織を30ほど立ち上げ、専任職員を配置。地元の高齢者に弁当を配布するなど様々な活動を展開している。
 徳島県の美馬市木屋平地区はいろいろなサービス拠点を1か所に集積するコンパクト化を実現。1階は郵便局や薬局など、2階は診療所、3階はNPOなどの拠点とした。富山県デイサービス(このゆびとーまれ)が高齢者、障害者、子どもを区別せずに受け入れるデイサービスを展開する中で、支えられる側同士の支え合いの場として発展した。
 宮本教授は「高齢者や障害者、子どもなど縦割りで守るやり方を廃し、一緒にした拠点で何が起きるか。自分の名前すら忘れた90代の認知症の婦人が、走り回る見ず知らずの子どもの名前は忘れずに食事の時、ふたをとってあげるようになった。社会的に弱者と呼ばれる人たちが拠点に集まることで、思わぬ人々の輝きが活き活きと拡がった。こうした動きは郵政事業の将来を考えると重要な流れだ」と指摘した。
 国交省のデータによると、全国に郵便局とほぼ同数の約2万2000ある小学校を起点に約30年後も人口は減るものの1~2キロの圏内は60%程度の人が残る可能性が高いことも示唆されている。
 鹿児島市のナガヤタワーはベランダの仕切りがない。発達障害の子どもたちのデイサービスで高齢者と交流したり、学生は高齢者のゴミ出しなど生活支援に携わることで家賃が安くなる住居となっている。大阪府豊中市では高齢者や困窮者の雇用確保として求人情報をもとに労働時間、仕事内容などを企業と個別交渉する。弘前市は2016(平成28)年4月から就労自立支援室を新設した。
 宮本教授は「人口減少や過疎化を嘆くのではなく、逆転の発想で考えてほしい。誰もが働ける間口の広い職場を作ることがユニバーサル就労になるが、郵便局という地域におなじみの拠点で、そうしたパッケージを作ることができるのではないか。人口減少の深刻化に対する処方箋としても小さな拠点づくり、共生型、ユニバーサル就労をヒントに、全国津々浦々の郵便局が福祉型労働を発展させていただきたい」と期待を寄せた。 
 13日に行われた第3分科会「郵政事業の特性を活かした取組みの展開」の中で、コーディネーターを務めた東海大学経済学部の立原教授は①郵便局の行政サービス②自治体施設との共同化③地域活性化ビジネス④地域振興ポータルサイトの構築―の4点に期待を寄せる政策提言を行ったと報告した。パネラーからは、みまもりサービスを提供する企業は増えているが、選ばれる郵便局になるには、外務ネットワークも活かし、定期訪問と結び付けるパッケージ仕組みも提案された。


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