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第6885号

【主な記事】

収益改善の提言に着手
特命委 限度額再引上げも


 日本郵政グループが2017(平成29)年3月期の連結決算で赤字を計上したことなどを受けて政治が動き出した。自民党の郵政事業に関する特命委員会(細田博之委員長)は5月17日、収益改善策の「提言」策定に着手する方針を固めた。提言にはゆうちょ銀行の限度額再引上げなども盛り込み、スピード感の観点から初めて郵政民営化委員会(岩田一政委員長)に直接提出する。23日には、郵便局の利活用を推進する議員連盟(郵活連=野田毅会長)役員会も開催された。郵活連と特命委ですり合わせ、公約実現を目指す。民進党の郵政議員連盟、公明党の郵政問題議員懇話会も国会会期中に議連を開く運びとなった。

 2015(平成27)年6月、郵活連の決議を受けた特命委は前年12月の衆院選で自民党の公約に盛り込んだ金融2社の限度額引上げを実現するため、ゆうちょ銀行の預入限度額を2年後までに3000万円まで引き上げることや、かんぽ生命の契約限度額の通計部分を1000万円まで引上げを検討すべきとの「提言」を作成。最高意志決定機関の総務会を経て、党として「日本郵政グループ3社の株式上場における郵政事業のあり方に関する提言」を政府に提出した。
 その直後から四半世紀止まっていた限度額引上げに向けて、急展開。しかし、政令改正に向けて決着した引上げ額は、かんぽ生命の場合は提言通りだったが、ゆうちょ銀行は1300万円と提言に示された額と差異があった。
 低金利環境の中で、限度額引上げは収益増にはならないものとされるが、金融機関の少ない地方では高齢者のタンス貯金になる傾向もあり、防犯も含む顧客利便性の観点で再引き上げを後押しすべきとの考えが議員間で浮上。昨年12月、郵活連は麻生太郎財務・金融担当大臣、高市早苗総務大臣、二階俊博幹事長、細田博之特命委員長に再引上げなどを求める決議文を提出した。
 5月8日の参院決算委員会では、徳茂雅之参院議員の「日本郵政グループ4社で、法人税や消費税といった租税を民営・分社化後、2015(平成27)年までにどの程度納付してきたのか」との質問に、日本郵政の市倉昇専務執行役が「4社の単年の法人税と住民税及び事業税の合計額は3213億円、実質負担する消費税合計額は854億円。民営・分社化以降の合計額は法人税と住民税及び事業税が3兆1800億円、消費税は約5600億円納付している」と答えた。
 ゆうちょ銀行の限度額引上げに対し、地域金融機関は顧客の資金がシフトしてしまうことに懸念を示しているが、金融庁の調査では今のところ顕著な資金シフトは起きていないとされる。特命委はこうした状況も鑑み、会社間窓口の委託手数料に係る消費税の減免措置なども含めて提言を作成する。
 7か月ぶりに開催された5月17日の特命委員会で、山口俊一衆院議員は「限度額が他金融機関へのシフトがない状況も見えてきた。このまま放置するのはよくない。特命委としての目標を定め、公約通り引き上げていくことが必要だ。三事業のユニバーサルサービスコストも議論してきたが、年内に結論を出す必要があるだろう」と指摘した。
 特命委では二之湯武史参院議員が「約2万4000の郵便局ネットワークを持ち、津々浦々様々な資源や資産を発掘できるのが日本郵政グループの強み。全国各地の宝をどう国際物流ネットワークに乗せていけるか。安倍政権が取り組む農産物輸出につなげられれば、これからも豪トール社とのシナジーはあり得るのではないか」と提案した。
 日本郵政の長門正貢社長は「全国郵便局長会(青木進会長)にトール社の現地を視察してもらった。青木会長は『宝の山だ。各地域の郵便局から提供できるものもあるし、彼らからもらうものもある』と話され、具体的なアイデアもいただいた」と語った。
 このほか、ゆうちょ銀行が認可申請中の口座貸越サービスの開始予定が2年後となる理由について、数人の議員から問いが投げかけられた。
 ゆうちょ銀行の池田憲人社長は「システムは一つ狂うと約1億2000万口座がたちまち使えなくなる。当初は3年程度かかると見られたが、そうはいかない。試験を行うのも正月か、連休時でなければできず、安全性を確実なものにするためには最低でも5回行う必要がある」と説明した。
 田中進副社長が「初めてのオーバーローンのサービスのため、万全を期したい。残高が赤になったときに口座貸越が動くため、当行の基幹システムに手を入れなければならない。開発におおよそ8か月。試験期間も約8か月かかる見通しで、様々詰めていくと申し訳ないが、その程度はかかる」と補足した。
 細田委員長は「他金融機関と同じ土俵に立つことが民営・分社化の基本。日本郵政独特の問題として三事業のユニバーサルサービス、特に郵便事業におけるユニバーサルはネット社会の進展など情勢変化で経営上難しい。今は政府が株式の一部を持つ企業でもあるのだから、しっかりした財務体質を持ってもらわなければならない。決算を踏まえて道筋を拡げるために議論を重ね、民営化委員会に提言する」との方針を示した。
 この日の特命委では議員らから豪トール社問題を残念に思う声も上がったが、細田委員長は「民営化を進める中で会社が自主判断することだ。水を差してはいけない。我々は皆応援団だ。当然、糾弾すべきところもあるが、応援することで日本郵政グループが民間企業と平等に成長する本来目的を達成することが最も重要だ。そうした方向で検討していきたい」と締めくくった。
 提言作成に動き出した自民党は、23日に郵活連役員会を開催。概ね、特命委と同じような議論が行われ、「切手やはがきなど1円単位で商売する現場の努力を無駄にするような経営は展開してほしくない」とする議員の意見も見られた。
 柘植芳文参院議員は「みまもりサービスや郵便法の改正などの施行や実施に向けても、現状課せられる上乗せ規制が経営にじわり影響を及ぼしている。日本郵便を健全にしなければ、三事業のユニバーサルサービスは担保できない。総務省も遠慮せずに、言うべきことを言う連携が必要だと思う。行政も会社も議連を有効に活用しながら議論しなければ前に進まない」と強調した。
 郵活連役員会では日本郵便の資料として、トール社の今後の事業展開の方向性が示された。トール社を日本郵便のグループ中核企業とする位置付けは変更せずに、豪州やシンガポールでの地位を確立し、アジアや米国など成長性の高い地域に経営資源を集中。製薬や農業など成長分野に進出する。日本企業への利用を促し、企業から個人のBtoCノウハウを活かす。経営管理は日本郵便がリスクコントロールをモニタリングし、業績評価や報酬を決定。ガバナンス面ではトール社が重要事項を決めるに際し、日本郵便の承認を得なければならないことなどが明記されている。


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