「通信文化新報」特集記事詳細

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第6884号

【主な記事】

郵便局は成長戦略の柱
[日本郵政グループ]M&Aも可能性を検討

 日本郵政グループが次期中期経営計画の策定をにらみ、新たな成長戦略を描き始めた。一部報じられた野村不動産の買収について、日本郵政の長門正貢社長は5月15日の記者会見で「『資本業務提携の可能性検討』以上のことは言えないが、M&Aを成長の一つの歯車にしたいことは絶えず考えている」と語った。ゆうちょ銀行は郵便局ネットワークを基軸とする地域経済活性化ビジネスにさらに注力。かんぽ生命は「お客さまにやさしい、あたたかいビジネスモデル」を追求すると同時に、商品改定の認可申請を3月末に行った。各社ともお客さま本位の業務運営を最重視し、地域と共に発展するビジネスモデルを展開する。

 日本郵政の長門社長は5月15日の会見で、記者団の「国内外の買収戦略は」との質問に、「日本郵政グループ全体で成長できる可能性があるものは聖域なく考えたい。郵便・物流、銀行、保険など今提供している業務に近い部分があればターゲットにしたい」と答えた。「不動産業買収は高値づかみにならないか」には「十分に分析しなければならない」とも強調した。
 「減損処理を受けた後の国際物流事業はどう展開していくのか」には、「約130億円しか利益が上がらない企業が毎年200円償却し、細々とやるより一気に負の遺産を一掃して、自由に営業展開できるようにしたかった。前向きな戦略の一手を遠慮なくできるように処理を行った。その直後という時期と関係なく大手を振っていきたい。将来の日本郵政にとって重要な決断であればあるほど処理したことを活かして決断したい」と意欲を示した。
 次期中期経営計画に描かれる成長戦略の柱の一つに郵便局ネットワークを活かす方針は変わらない。長門社長は先立つ4月25日の記者会見で、記者団の「減損処理は経営戦略にどのような影響があるか」との質問に対し、「日本郵政連結の利益の8割はゆうちょ銀行、2割がかんぽ生命のパフォーマンス。従って貢献度から見て金融2社だけでよいのではないか、日本郵便は何をやっているのか、となるかもしれないが、ゆうちょ銀行は約180兆円の貯金の93%が全国津々浦々2万4000の郵便局で扱っている。ゆうちょ銀行は233の直営店を持っているが、直営店で集められる貯金は180兆円の7%に過ぎない」と指摘。
 「日本郵便の郵便局なしには食べていけないビジネスモデルだ。かんぽ生命も同様で、彼らは約1100人の渉外社員を持つ。しかし、郵便局には保険を販売する渉外社員として、約1万8000人のセールスパーソンを持っている。ほとんどの保険契約は日本郵便経由ということで、郵便局、日本郵便なしには生きていけないビジネスモデル。一見、日本郵便は日本郵政グループの中で一体どういう立ち位置にいるのか、収益的に全く貢献していないじゃないかと思われるかもしれないが、むしろコア拠点はここだ」と強調した。
 一方、ゆうちょ銀行の成長戦略は「顧客本位の良質な金融サービスの提供」「地域への資金の循環等」「資金運用の高度化・多様化」の3本を基軸に掲げ、更なる企業価値の向上を目指す。金融庁が打ち出す「貯蓄から資産形成へ」に基づき、「資産形成のサポート」「決済サービスの利便性向上」などで顧客ニーズに応える。来年から導入される積立NISA(少額投資非課税制度)を積極的に推進。全国の郵便局ネットワークや広範な顧客基盤といった特色を活かして、強みを持つ分野での業務に特化する。
 投資信託などの販売スキルの更なる向上に向けて日本郵便と連携した社員育成サポートの実施などコンサル営業人材の育成や増員に取り組む。また、地域経済活性化ファンドはもとより、顧客から納付を受けた税公金の領収済通知を他地方銀行の分も一括して専門業者を経た上でゆうちょ銀行がまとめたものを自治体に提出するビジネスも認可申請中となっている。
 ゆうちょ銀行の池田憲人社長は「いろいろなお客さまのニーズを探すのはやはり地銀がナンバーワン。一緒になって循環していこうと考えている。その結果、我々も金融を手がけ、ビジネス化に結び付けていこうという思いだ。『ゆうちょ銀行よ、一緒に入ってこいよ』との互いのコミュニケーションづくりが一番重要で、今、それを進めている。次期中期経営計画の地ならし期間の今年、地道にコミュニケーションを作りたい」との方針を示した。
 記者団の「投資信託は業績にどのように貢献し、どの程度の利益を期待するか」には、「来年から積立NISAが始まる今年は次期中期経営計画の助走期間。計画では来年の4月からベンチマーク(資産運用や株式投資の指標銘柄など比較に用いる指標)を作って進んでいこうとしている。預かり資産が直近で1兆3000億円。コンプライアンスも含めていかに長く持ってもらうか、説明を十分にしなければいけない。郵便局に『貯蓄から資産形成へ』という思想を植え付けていこうと日本郵便の横山邦男社長とも毎月1回、すり合せをしている。回転売買が非常に横行する中で、金融機関の投信の平均保有期間は4年半だが、郵便局は6年と長い」と指摘した。
 通信文化新報の「JP投信の状況などは」には、「昨年2月に日本郵便、三井住友信託銀行、野村ホールディングスと新会社JP投信を設立し、1年が経過した助走段階。金融情勢に合わせた展望を作りたい」と語った。
 かんぽ生命の石井雅実社長は「2012平成24)年6月に社長に就任してから5年が経った。保険金支払い問題、改定学資保険の認可取得、郵政グループの3社同時上場、第一生命との業務提携、簡易生命保険誕生100周年、新たな経営理念の策定のほか、基本構想から7年間にわたり着手してきた基幹系システムの更改など、上場企業の基盤づくりが完成に近づいた。中期経営計画の新契約の目標も1年前倒しで達成できた。次期中期経営計画を新体制のもとで策定し、さらなる企業価値向上を目指し、成長軌道に乗せていくことが重要だと判断した」と説明した。
 石井社長は先立つ4月11日の記者懇談会の席上、「かんぽ生命は保険金支払い業務としては世界初となるIBMWatsonの活用のほか、フィンテック(金融とITの融合)などにも先駆的に取り組んでいる。積極的に新しい技術を取り入れると同時に、お客さまの人生を支えるためには、対面でのコミュニケーションが不可欠と考えている。『お客様満足度調査』においても、対面サービスの満足度が最も高い。幸い、かんぽ生命は全国2万を超える郵便局で保険を取り扱っている。ネットワークを使ったあたたかいコミュニケーションを進化させたい」と語っていた。
 懇談会で千田哲也常務執行役は「新契約年換算保険料は営業力も表す。販売チャンネルの6割が渉外社員、3割が郵便局、1割が直営店。『郵便局です』と言うとドアを開けてもらえるのが最大の強みだ。『満期にいくら返ってきます』との営業トークではなく、今後は保障営業。ライフプランに応じた質的な転換を目指す」と強調した。
 かんぽ生命は低金利環境下における顧客の保障ニーズに応えるため、入院特約の改定、低解約返戻金型終身保険の創設、長寿支援保険の創設を予定しており、現在、認可申請中となっている。


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