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第6883号

【主な記事】

地方創生に段階的支援
[総務省検討会]移住交流で中間報告

 政府が地方創生に取り組む中で、若者が自然豊かな地方生活を求める〝田園回帰現象〟が少しずつ現れてきている。総務省傘下の「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会」が4月25日に公表した中間とりまとめでは、そうした機運を追い風に地方移住を進めるためには「段階的な支援の必要性」を指摘。段階的な移住は内閣府も同じ認識を示している。総務省は同日、地域経済の好循環に向けて、若年層が地方で収入を得ながら短期間に体験的に学べる「ふるさとワーキングホリデー」の採択団体も決めた。一方、内閣府は4月28日、自治体が関わる地方支援事業に活用できる地方創生推進交付金の対象事業を決定した。

 地方創生推進交付金は地方版総合戦略に位置付けられ、地域再生計画に認定される自治体の自主的、主体的な取組みを支援する交付金。対象とする事業は官民協働や地域間連携、政策間連携など総合的にそれら要素が含まれる先駆的な事業、横展開が図れる事業、既存事業の隘路を発見し、打開できる事業を条件とする。
 対象事業は①ローカルイノベーションやローカルサービス生産性向上などの「しごと創生」②移住促進や地方創生人材の確保や育成など「地方への人の流れ」③若者雇用対策やワークライフバランスの実現など「働き方改革」④コンパクトシティや小さな拠点などの「まちづくり」―の4分野を挙げている。
 また、地域経済分析システム(RESAS)の活用などで客観的なデータやこれまでの類似事業の評価に基づいて事業設計されていることや、成果目標を設定し、検証と事業見直しのためのPDCAが外部有識者が関与する形で整備されていることも条件としている。
 これらを満たした「しごと創生」事業は都道府県392件(約87億円)、「地方への人の流れ」事業は137件(約24億円)、「働き方改革」事業は35件(約6億円)、「まちづくり」事業は144件(約18億円)選定された。このうち、都道府県と市町村への交付金を分けて見た場合、「まちづくり」事業は都道府県は7件だが、市町村は138件と圧倒的な割合を占めている。都道府県と市町村分を合わせた交付対象事業が多いのは北海道で87件のほか、栃木県39件、長野県60件、岐阜県47件、愛知県46件、高知県43件、熊本県50件などとなっている。
 一方、総務省が2016(平成28)年11月に発足させた「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会」は4月25日、中間とりまとめを報告した。
 過疎地をはじめとする地方圏で著しい人口減少や低密度化が進んでいるが、生活支援サービス需要が増加する一方で「地域づくりの担い手不足」が課題として浮上。ただ、近年の若者には、都市から地方への自然志向、人の役に立ちたいという価値を重視するトレンドが生まれ、地域によっては若年層を中心に〝田園回帰現象〟が起きている。とりまとめには、地方に変化を起こす人材が地域に入り始めていると記されている。
 検討会はこうした新たな動きに着目し、その想いを地域づくりに生かす移住・交流施策のあり方を議論。主体者は地域住民だが、地域外の人材も担い手として重要な役割を果たすことを強調している。
 さらに、長期的な「定住人口」や短期的な「交流人口」ではなく、地域の住民と多様に関わる「関係人口」という層に着目。地域外人材との継続的で複層的なネットワークを形成することで、地域内外の連携により自立的で継続的な地域づくりの実現が重要と指摘している。
 今後の方向性として、都市住民の地方移住は一気にできないことから、「段階的」に移住交流を支援し、ニーズに応じた地域との多様な交流機会を創出することが有効と明記。施策を展開する「関係人口」と地域をつなぐ仕組みを整えるため、地域でコーディネートやプロデュース機能を発揮できる「自立した中間支援機能」が不可欠で、その中心的な役割を担う人材の育成支援を併せて検討する必要性に言及した。
 山本幸三地方創生大臣は4月28日の記者会見で、通信文化新報の「移住交流検討会の中間報告への見解を」との質問に対し、「我々も地域版総合戦略やライフスタイルの見直しをテーマに掲げ、同じ問題意識を持ち、移住交流を推進している。東京一極集中を是正する大きなポイント。どんどん進めていただきたい」と強調した。
 また「高知県を視察した際に山間部への移住交流を進める取組みをNPOの皆さんが展開し、定住者の面倒を見たり、交流の仲介役になっていたり、素晴らしいと思った。すぐに山間部に行くのは難しいために、とりあえず高知市内に移住し、ある程度県内の状況が分かってきたところで山間部に越す2段階移住の成功例が多いと聞いた。自然に親しみながら子育てすることなどが人生に豊かさをもたらす考えが広がってきている」と語った。
 総務省は4月25日、地域経済好循環のさらなる拡大に向けて人と情報の流れを創出させる「ふるさとワーキングホリデー」の採択団体を決めた。都市部の若者が一定期間地方に滞在し、働いて収入を得ながら地域住民との交流や学びの場を通じて地域の暮らしを学ぶ支援施策。石川、福井、岐阜、京都、鳥取、島根、岡山、高知、福岡、宮崎の10府県の団体が採択された。
 高市早苗総務大臣は同日の記者会見で「10府県で1500人程度の参加者を受け入れる。地域の魅力と特色を活かした創意工夫に富んだ提案で、岐阜県の『新たな体験型観光プランを地域の住民と共に企画・立案するプログラム』、鳥取県の『まんがやアニメを活用して地域活性化や観光振興に結び付ける“まんがとっとり”に取り組む地域の住民や団体との交流』など、各地域ならではの提案。採択団体は昨年度実施した8道県での取組みも踏まえ、さらに魅力的なプログラムに練り上げていただきたい。第2次補正予算の事業として1月以降の受入となった2016(平成28)年度とは異なり、17年度は通年実施。地域の最適なシーズンを選択するなど、一層多くの方々に満足いただける事業を展開してほしい」と期待を寄せた。


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