「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6881・6882合併号

【主な記事】

2次売却も個人重視
財務省が方針、日本郵政の株式

 財務省は日本郵政株式の2次売却の本格的な準備に着手した。2次売出においても地域に根差す郵便局の特性に鑑み、国内や個人投資家を重視した方針を堅持し、東日本大震災の復興財源に充てる。そうした中、業績が厳しくなった日本郵便子会社の豪トール社の減損処理が決まった。日本で(三事業の)ユニバーサルサービスを維持する収益確保のために、BtoCだけでなく、BtoB、BtoBtoCを加えた総合国際物流のアジア戦略を目的とした買収だったが、想定通りに業績は上がらなかった。今後の日本郵政グループの経営への影響が注目されている。

 財務省が主幹事証券会社などを決定した3月29日から2次売却の実質的な動きが始まった。主幹事証券のうち、全体的な作業運営や株式の販売戦略を検討し、提案しながら売却までのスケジュール管理や国内と海外の需要結果を踏まえた全体の配分を決める「グローバルコーディネーター」は、国内を大和証券と野村證券、ゴールドマン・サックス証券、海外をメリルリンチ日本証券が受け持つ。
 計画通りの販売を達成するための引受シンジケート(大型の資金調達に対して、協調融資や新規に発行される株式、債券等を引き受けるために金融機関などで結成)団を編成する投資家の購入需要、希望価格などを調査、集計、証券の配分権限を決定する「ブックランナー」は、国内はみずほ証券と三菱UFJモルガンスタンレー証券、海外をメリルリンチ日本証券が担う。
 上場時の株式売出は、市場に周知しながら展開するため、個人投資家が周知に気づいて買付けしやすいが、2次の売出は公表から追加売却まで3週間程度と期間が短い。財務省は「上場時の内外比率の国内8、海外2の配分を基本に、短かさも考慮しながら検討していく。上場時と追加売却ではマーケットに対する手法などが異なるため、どのような形で数値を決めるかは検討したい」と話す。
 上場時の国内海外販売比率は海外機関投資家が2割、国内8割のうち95%が国内個人投資家、5%は国内機関投資家となる。海外投資家を含めた百分率では国内個人投資家76%、国内機関投資家4%と国内重視で、かつ個人に重きが置かれている。日本郵政株式の個人投資家の全体数は約54万6000人になるが、ゆうちょ銀行とかんぽ生命を合わせると約130万人以上に上る(同じ人が数社持つ場合は延人数)。
 日本郵政の発行株式数は約45億株。うち、市場に流通するのは約5億株となるが、その中での個人投資家保有割合は52%(昨年9月末時点)となっている。
 一般企業の個人株主比率は20~30%のため、日本郵政の52%という数値は個人重視を如実に表す。株主の数を調査した日本取引所グループの2015(平成27)年度株式分布状況調査では、日本郵政グループのうち2社が日本企業の中でベスト10に入っている。
 改正郵政民営化法の附帯決議を踏まえ、財政制度等国有財産分科会(佃和夫分科会長)がまとめた「日本郵政の株式処分の在り方」の答申には「特定の個人、法人に集中することなく、広く国民が所有できるよう広い範囲の投資家を対象に円滑に消化できる方法により行う」と明記されており、財務省は「長い間、地域に根差してきた日本郵政グループは、顧客との関係が密接。国内個人投資家の方への株式販売をしっかり進めていきたい」と強調する。
 現在までに一般株主に売り出した日本郵政株式11%分の約6800億円とゆうちょ銀行とかんぽ生命の売却益で自社株買を行った8.5%分の約7310億円を合わせて、19.5%に当たる約1兆4000億円を売却した。
 2次では、政府に保有義務がある全体の3分の1と既に売却した2割分を除く株式の一部が売り出される。
 株式処分の準備が整うまで主幹事による発行会社の国内と海外の引受審査、マーケティング準備、和文と英文の目論見書作成、シンジケート団、内外比率、売出株数、引受手数料等の決定など最低3か月はかかるため、2次売却は7月以降が予定されている。

日本郵便のアジア戦略に課題

 売却準備が進められる中、4月20日、豪トール社の減損処理の検討が報じられ、日本郵政グループや財務省、総務省に問い合わせが殺到した。既に豪日刊紙のフィナンシャルレビューは2月13日に「トール社の赤字経理」に関する記事、3月18日に「日本郵政によるトール社60億ドル買収の過程」と題した記事を掲載している。
 それによると当時、2015(平成27)年内の上場を目指していた日本郵政グループは14年に世界中の物流企業を調査。日本郵便はまず10月に、香港レントングループと仏ジオポストと資本・業務提携を行った。グローバルな航空輸送ネットワークと海外小包配達ネットワークを融合させることで、通販事業者向けに高品質な国際宅配サービスの提供を開始した。
 生産者から個人にものを届けるBtoCが日本郵便の主流の商売だったが、上海などでは高層ビルと巨大な保冷倉庫が立ち並び、スーパーマーケットの一角で配送伝票を作成。海外にも国内と同程度のスピードで届けられる実態を見た日本郵便はBtoB、BtoBtoCもできる総合物流の世界に参入しなければBtoCだけではやがてピークアウトする危機感を抱き、アジア地域で3PL(荷主に物流改革を提案し、包括して業務を受託し、遂行する)を展開していたトール社に目を向けた。トール社がアジアに強く、フォアーディング(国際貨物を安全、確実にスピーディーに輸送するサービス)に強いと見て、交渉は進められた。
 翌15年1月から、日本郵便とトール社との本格交渉がスタート。フィナンシャルレビューには「多くの製造業が中国など日本以外のアジア地域に移動していることもあり、政府も日本郵政3社の株式上場を機に太平洋地域の貨物輸送ルートを支配する機会と見なしていた」とも記載されている。
 トール社は日本郵政に対して、15年2月18日を期限とするデューデリデンス(資産の調査活動)を求め、交渉が進められた。フィナンシャルレビューには、トール社が1か月あたり2500万豪ドル(約21億8479万円)の赤字を出しており、今年6月までにトール社約1700人の人員削減計画なども記されている。しかし、トール社の買収は日本郵政グループにとって、さらなる成長の芽をつかみ、トータルの利益で『国内の三事業のユニバーサルサービスを維持』することが目的の『将来を見据えた必要に迫られた経営戦略』だった。
 高市早苗総務大臣は4月25日の記者会見で、記者団の「トール社買収時の企業価値やシナジー効果の見積もりも問われるが、ガバナンスは」との質問に対し、「トール社については現在検討中で、買収時の決定は日本郵便、日本郵政の取締役会で判断されたと承知している」と語った。先立つ21日には、通信文化新報の「減損処理検討と報道されたが、日本郵政グループの経営への影響などをどう見るか」には「日本郵政の経営判断によるもの」と答えた。
 日本郵政が国際物流事業(トール社)に係る損益見通しを見直した結果、2017(平成29)年3月期の連結決算において、事業に係るのれん及び商標権と有形固定資産の一部を合わせた4003億円を減損損失として計上する。


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