「通信文化新報」特集記事詳細

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第6880号

【主な記事】

口座貸越の目標明示
5年間で150万件、800億円

 ゆうちょ銀行が認可申請中の口座貸越サービスについて具体的な数値目標を煮詰めている。認可された上で業務開始予定の2019(平成31)年4月から1年間ごとに30万件、5年間で150万件の新規契約を獲得し、5年間の残高は個人向けカードローンの市場規模年間約10兆円の0.8%に当たる約800億円を想定。初の本格的な貸付業務となることから経営陣が先頭に立ち、金融庁が提唱する「顧客本位の良質な金融サービス」に沿う経営戦略と業務実施方針を策定し、法令順守の徹底を図る。

 預金口座残高を超える場合のみ貸付を行う口座貸越サービスに限定した一般の統計数値はないが、個人向けカードローンの市場規模は昨年12月末時点で、銀行と信用金庫合わせて6兆266億円(前年比9%増)、貸金業者で4兆403億円(前年比1%増)と特に規制のない銀行系金融機関の市場が拡大傾向にある。
 全般的には厳しい金融情勢の中でも比較的需要の高い市場の一角に、貸越サービスのスタイルで参入する体制は、申込受付書類をゆうちょ銀行直営店と郵便局で受け付けた後、書類チェックや審査システム入力などの受付処理をスルガ銀行の住宅ローンの媒介業務を行っている事務受託会社に委託。実際に媒介に従事した人材やシステムを登用する方針で、個人信用情報と自動審査モデルの保証審査も媒介業務の保証会社を活用する。
 ゆうちょ銀行は保証審査を通った顧客情報を商品規定の合致確認や既存取引状況を審査し、契約に至るまでの「銀行審査」の基幹人材は専門性を有する中途採用を行うほか、研修派遣などにより育成した人材を投入。ゆうちょ銀行の中に「ローン取扱集中店」を作り、各顧客の上限額を設定する「契約事務」と、契約期間中の延滞催促などの債権管理や回収、苦情対応、貸付条件変更相談の「期中管理」を実施する。滞納となった場合の借金は審査業務を委託する保証会社が代位弁済(債務者に代わり保証人が債権者へ債務を弁済)する。
 ゆうちょ銀行が認可申請中のものには口座貸越サービスのほか、地域金融機関との事務共同化、銀行法10条2項柱書に付随する業務等があるが、これまで公表されていなかった新規業務として、「税公金の取りまとめ事務の共同化」を検討している。これらの新規業務は、4月13日に行われた郵政民営化委員会(岩田一政委員長)でゆうちょ銀行から報告された。
 ゆうちょ銀行直営店と郵便局で顧客から納付を受けた税公金の領収済通知を整理し、自治体などに送付。受入件数や金額を通知する事務作業で、ゆうちょ銀行の分と他銀行の分を貯金事務センターがまとめ、一括して専門業者を経た上でゆうちょ銀行が取りまとめたものを自治体に提出する。郵便局の公益性を活かす業務になる。
 申請中の新規業務には、ゆうちょ銀行が全ての運用業務に参入できるようにするため、資金運用に関する高度化や多様化に資するCDS(企業の債務や破たんに備える金融派生商品。社債や国債、貸付債権などの信用リスクに対して保証する契約)など市場運用関係業務の包括的な認可の一環として、「国に対する資金の貸付け」も認可申請していることも明示された。
 銀行法10条2項で規定される「国に対する資金の貸付け」は「交付税及び譲与税配布金及び譲与税配布金特別会計」などへの短期の資金貸付のプライマリー取引(資金調達を目的に新規発行する株式や債券など有価証券が、発行者から直接、仲介者となる引受会社を介して投資家に第一次取得される)を意味する。プライマリー取引は株式の場合、新しく上場する会社の株式の売り出しや、既に上場している会社の増資に伴う株式の発行の際に利用され、公募価格は発行会社と証券会社が決定し、証券会社から投資家へ売却される。
 プライマリー市場(企業が発行する株式や債権などの有価証券を投資家が購入する市場)は、発行体にとって資金調達をするための重要な場で、投資家には新たな資金運用の場となる。
 一方、発行されている株式などの有価証券を取引するセカンダリー取引にはゆうちょ銀行は既に参加している。証券市場は、プライマリーとセカンダリー両方の市場がうまく機能することで成立し、価格が正常に形成され、取引を円滑に行うことができる。
 今回申請した資産運用業務の中には、認可は取得しているものの、承認が取得できていない業務の承認申請も行われているが、「承認」申請した業務は会社型投信のETF(株式や債権などの金融商品の一つ)やリート(不動産投資の金融商品)の売買、有価証券に関連する海外上場物の株価指数、先物や短期取引以外の株式スワップのデリバティブ取引、海外金融機関への有価証券貸付、株式などを対象とする特定金銭信託などの金銭債権の取得、非上場の外国短期社債等の取得、先物(通貨)、先物オプション(通貨)となる。
 認可と承認の両方申請中の資産運用業務はCDS、商品デリバティブ取引、株式スワップ(短期取引)、株式のリバースレポ(有価証券貸借取引の一形態で、債券を担保に資金の貸し出しを行う取引)がある。
 金融庁は「事務フローだけではなく、顧客とのファーストコンタクトの段階で、どのようにフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)の視点に立てるのかも今後、掘り下げていただければと思う。どのタイミングでどのように勧めるのか、声掛けなのか、パンフレットを置いておくのか、配布するか、TVCMを流すのかなど商品コンセプトも含めて郵便局を活かせるビジネス展開を期待している。抽象的なものから具体的なものに経営陣が関与して作り上げ、顧客との共通価値を創造してほしい」と話している。


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