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第6876号

【主な記事】

現場の人手不足に対応
[日本郵政グループ]働き方協議の場を新設


 日本郵政グループは3月16日、2017(平成29)年の春季生活闘争における労使交渉で、ベースアップ(ベア)を見送り、一時金を年間4か月にすることで労働組合と妥結した。ベアが2年連続見送りとなったのはマイナス金利や郵便・物流部門の厳しい経営状況などが背景にある。交渉では、現場の人手不足に対応するため、期間雇用社員から正社員への登用の枠を拡げ、正社員登用試験の応募要件緩和や初任給算定方法の改善など人材活用施策を強化した。また近年、増えた介護離職問題なども含め、政府と連動して改善を図るため、「働き方改革」に関する労使協議の場を新たに設置することなどを決めた。

 組合側はベア6000円と一時金4・3か月を求めたが、ベアはゼロ、一時金は夏1・75、冬2・25か月計4か月と2年連続同じ形で決着した。2007(平成19)年の民営化と同時にJP労組が結成されて以降、10回の春闘のうち、ベアは3度実現していたが、グループ3社の上場以降も経営を取り巻く厳しい情勢が続いていることから今回の結論に至った。
 労働集約型産業の郵政事業にとって今後も労働力の確保が重要な位置を占める。他企業との賃金水準に大きな格差ができてしまうと郵政事業における良質な労働力確保が困難になることも懸念された。
 このため、格差是正に配慮し、期間雇用社員のスキルや勤務時間などに応じ、夏期一時金「特別加算」として上限5000円を上積み支給する。昨年は期間雇用社員の「特別加算」は1万円上限、正社員は8000円だった。今回、期間雇用社員の上限は半額となるが、正社員には支給されない。
 今般の郵便局では人件費削減の方針もあり、人員不足の実態が全国的に散見。分社化以降、退職者の補充を期間雇用社員で代用していることも多く、郵便局現場では休みがとりにくい状況が続いている。JP労組だけでなく、全国郵便局長会(青木進会長)も以前から正社員の補充を会社側に求めてきた。人員は「必要労働力」という計算式に基づいて試算されているが、現場では今も人材不足が続いている。
 2018(平成30)年度新卒社員は日本郵政グループ全体で約5000人の採用が予定され、17年度の6315人を下回るが、頑張る期間雇用社員の道を拓こうと、正社員登用採用者を昨年より500人増やし、3145人程度まで拡充。正社員登用者の初任給算定方法も期間雇用時代の勤務年数の前歴換算を85%から90%に改善することで、正社員になった時の初任給が上がる仕組みを構築した。
 これまで1年半としていた期間雇用社員の育児休業期間を2年まで延長するなど復帰のしやすさに配慮した人材確保策も図った。
 日本郵政グループ中期経営計画には“ヒトへの投資”が盛り込まれており、豊かな営業力と専門的なスキル、幅広い視野などを主眼に人材育成を軸足に置いたグループ成長を目指している。
 人事・給与制度は春闘時期以外にも常に協議されてきたが、2015(平成27)年度に導入された営業成績や業務効率、チーム業績に基づく業績手当を踏襲。ゆうちょ銀行の営業手当は変わらないが今回、かんぽ生命直営店などの貢献基本手当の支給対象者が変更される見通し。
 グループが経営上の成長戦略に掲げるダイバーシティ(多様化)の観点から、春闘では、新たに「働き方改革」の労使協議の場の設定が決まった。また、ワーク・ライフ・バランスに関連して再採用制度の改善や配偶者海外同行休職制度が創設される。さらに、無認可保育所利用者の補助増額、育児休業に係る職場復帰プログラムの充実、介護に関するeラーニングの実施など多くの施策も立ち上げる。
 このほか、人事異動に伴う負担軽減のために単身赴任手当の一部引上げや引越移転料の増額も決定した。算定は引越先までの距離などによって定められる。
 日本郵政の志摩俊臣人事部長は記者会見で、記者団の「特別加算5000円の対象となる期間雇用社員は」「組合員24万人のうち、何人が期間雇用社員か」などの質問に対し、「スキルレベルを勤務時間の長短も含めてAからCまで3段階に分けているが、今回はAとBの人が対象となる」と説明。安瀬龍一人事部担当部長が「期間雇用社員約15万人が対象となる。非正規社員全体は19万人で、うちJP労組の組合員は6万人」と補足した。
 「昨年に比べるとやや手堅い内容と感じるが、背景は」「経営環境の厳しさの詳細を教えてほしい」との問いかけに、志摩人事部長は「一番厳しかったのは日本郵便の郵便・物流部門で、何とか耐えられる範囲を考えた。郵便減少に加え、労働需要や有効求人倍率も上がり、人件費単価もアップ。非常に厳しい環境にある」と強調した。
 「働き方改革はどのようなことが想定されるのか」には、「同一労働、同一賃金、長時間労働の是正、女性の活躍、ワーク・ライフ・バランスなど諸々あり、それらをトータル的に議論する」と答えた。
 通信文化新報の「働き方改革の労使協議の場は初めての設置になるのか」には、「これまでも経営全般を経営陣と労組で意志疎通を図る労使協議会があったが、今回は働き方改革に絞った労使協議の場を設ける。政府でも検討が進められているため比較的頻繁に開催したい」と語った。
 JP労組は「厳しい経営状況により、ベアを断念せざるを得なかったことは残念。また、特別加算も期間雇用社員の処遇改善を優先し、正社員なしとなったことは断腸の思いだ。一方、登用枠の拡大や登用要件の緩和、さらには前歴換算の引上げを図れたことは現在、頑張っている期間雇用社員の期待に応えられた。郵政グループの福利厚生は、例えば育児休業法など法律を上回っているが、その中でも介護離職などが増えている。そうした問題に的確に対応し、今後も働きやすい環境整備を進めていく」と話している。


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