「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6876号

【主な記事】

日本郵政グループへの期待
ユニバとは、郵便局ネットワーク
目指すはオール郵政の議論の場
柘植芳文参院議員(自民党)


 郵便局長出身の柘植芳文参院議員の誕生から4年近くが経過した。「地方から元気を出し、地方からのろしをあげてほしい」と語る柘植参院議員は現在、自民党副幹事長、参院総務委員会筆頭理事など党の重職も務めている。最も郵政事業が揺れ動いた時代に3年間全国郵便局長会(青木進会長)の会長として改革の道筋を拓いた柘植参院議員が今、目指すのはオール郵政の議論の場づくりだ。「三事業のユニバーサルサービスとは郵便局ネットワークを意味する。どう維持していくか、会社も、全特も、政治も考えるべきだ」と訴える。

■1月2月に全国各地で開催された局長会の地区総会に数多く出席され、「ゆうちょ銀行の新規業務も銀行と名乗るからには融資の風穴を開けなければならない」と強調されました。優先順位をどう考えますか。
 優先する条件の1点目は、郵便局ネットワークをフル活用して、現場がその商品を扱うことで営業しやすくなること、2点目はお客さまにとってプラスになること、3点目は会社の収益向上になること、三つが備っていなければ意味がない。
 その条件に見合った事業としてカードローンは適している。若い時代は誰もが経験したと思うが、給料日数日前に通帳残高を見ると1万円しか残っていない、という時などに利便性がある。カードにデビットカード(預金口座とひもづけした決済用カード)を付加させて、郵便局で扱う多くの商品購入にポイントを付加するサービスも良いのではないかと思う。
 局長会の地区総会には自民党の多くの国会議員が出席してくださったが、その先生方が党に帰ってどのようなメッセージを届けてくださるか、また、党はどうそれを受け入れる状況を作れるのか。「作れないとすれば今後、党が苦労することになる、現場は待っているのですよ」と党幹部には申し上げてきた。
 2012(平成24)年12月に申請されたゆうちょ銀行の新規業務の中には住宅ローンもある。しかし、現実を見た時に郵便局を訪れる多くのお客さまの利便性につながるものなのか。ゆうちょ銀行の経営上、どの程度プラスになるのかはなかなか難しい。
 カードローンの創設は局長会の強い要望でもあった。昨年末から金融庁やゆうちょ銀行と一体になって進め、大筋合意できたようで、それほど遅くない時期に、認可が得られるだろうと思う。収益性もそうだが、たくさんのお客さまに喜んでいただける商品。そうした商品を媒体に郵政事業を幅広く進めてほしい。

■カードローンの創設以外で期待されるものはありますか。
 金融が絡む新規業務は金融庁と総務省の認可が必要になる。ゆうちょ銀行は昔からボランティア貯金(援助を求める国の人たちや自然保護支援の手が届くよう通常貯金と通常貯蓄貯金の利子のうち、税引後の20%相当額を寄付金とする)など様々なサービスを提供してきた。そうした商品は他の銀行にはあまり期待できないと思う。ゆうちょ銀行がこれら公益性を活かしたサービスにさらに目を向け、拡げていってほしい。収益向上は当然だが、郵便局の本来の価値を高めながら日本郵政グループとして、金融2社の新規業務を生み出していくべきだ。

■日本郵政の取締役でもある池田憲人ゆうちょ銀行社長も頑張っていると思いますが。
 地域活性化ファンドなども頑張っておられるが、さらに自治体との連携を強化していく仕組みも考えていただきたい。また、ODA(政府開発援助=途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動の公的資金)の代わりの海外協力資金に目を向け、海外融資も考えてもよいのではないか。国の予算と絡めて、特殊な方法もあり得る。
 例えば、財政投融資は戦後の復興に大きく寄与した。今、カンボジアやベトナムなどの国がODAの資金がない。困っている国を助ける仕組みは郵便ばかりでなく、貯金なども他国の開発の手本として、日本は良い先進事例を持っている。一度は壊してしまったが、日本の国づくりに大きく貢献した宝を今の時代に適した形でもう一度作りあげていくことは、収益向上にもつながる話だ。

■昨年、「公の魂は失わず」という本を著されました。
 2007(平成19)年に日本郵政グループが発足し、12(平成24)年4月27日に改正郵政民営化法が成立するまでの長い道のりの中、地域に密着して生きてきた郵便局長がどのような思いで、政治に向き合って成立にたどり着いたか、会員の皆さんに伝えたかった。大きな転換点を踏まえた上で新たな歴史を作っていってほしいという願いを込めたものだ。
 民営化以前のサービスとして有名なものだが、岡山県新見市菅生で高齢者対象に始められた「赤いハンカチ」は過疎化が進む地域で郵便局まで出かけられない高齢者が軒先に「〒」マークの入ったハンカチを下げておくと、配達員が立ち寄って貯金の引出しや年金の配達を依頼し、用事がなくても下げておくと話相手になった。郵便局の役割を体現する地域の絆だった。郵便局の持つ原点を全国どの地域の郵便局で働いていようとも忘れないでほしい。

■改正法には旧民営化法にはなかった公益性と地域性が盛り込まれました。改正法で残された3割の課題は今後、どのような改善の道筋が考えられますか。
 改正法は数年間廃案が繰り返された郵政改革法案の二の足を踏まないように、短期間での三党合意を目指し、成立できた。基本的なところは筋が通っている。ただし、隙間も残されており、担保するにはまず議論ができる政治面での環境づくりをしなければならない。自民党は局長会と一緒に進むことを感謝している。「郵便局の利活用を推進する議員連盟」(郵活連=野田毅会長)も260人ほどになり、多くの議員が郵政事業に目を向けている。野党の民進党、与党の公明党も同じように党の議連で議論している。
 しかし、銀行や信金、信組、農協など郵便局と競合する企業関係者も、国会議員に働きかけているわけで、それを受けた先生方も党内には多くおられる。改正法の時のように、三党合意をベースに議員立法という形で、改善していける環境づくりを目指したい。自民党が政権を取り戻して3年半。郵政支援で他の政党が目立ち過ぎることも党としては気になるのだと思う。時間がかかるかもしれないが、少しずつでもオール郵政の機運を作り上げていくことは不可能な話ではない。

■どのような部分が残された課題になってますか。
 まだまだ難しい面が多くある。例えば、郵便事業分野を規定している郵便法も旧郵政省時代のままだ。国の機関の法律のため様々な規制が残されている。既に民間企業として営業活動しているのだから、規制を取り払わなければ地に足のついた営業活動などできない。
 年賀はがきも基本は本社中心に展開されているが、各地方の支社がもう少し自由な営業に目覚める体制づくりを、会社が考えるべきだろう。より収益の上がる営業を展開するために何を撤廃すべきなのか、知恵を出さなければいけない。今は行き詰まると、規則があるためにできないとの理由で終わらせる。法律も本社の在り方も改めていくべきだと思う。議員が年賀状を出せないのもおかしい。

■変えるべきは改正法ということですか。法律を変えることなく、改善していくことも考えられますか。
 省令や政令で変えられる部分も多くある。国営から民営になったにもかかわらず、基本的なところが変わらない。それでは現場はどうしようもない。郵便は今でも公務員の会計法を使い、営業しやすい体制になっていない。
 限度額も民間企業なのだから早期に撤廃すべきという声も強い。もちろんそうだが、この問題は政局になりやすい。上場3社の株式売買と深く連動するためだ。旧民営化法による民営化を目指していた関係者から見ると、早く金融2社の株式を全て処分し、「完全に市場に出てイコールフッティングにせよ」と、未だにそうした考え方を持っている人もいる。
 改正法成立以降の民営化では金融2社の株式処分は「日本郵政の経営者の判断」で、経営者が誤った考え方をしなければスムーズに進む。完全売却を段階的に目指していくものだ。その部分をいじろうとすると必ず政局になる。政治的に対応する法的な措置は野党を含めてオール郵政の体制ができてきた時期を見計らって対応すべきだ。

■ユニバーサルサービスを単純に数だけではなく、水準で評価する議論がいよいよ始まります。
 水準は10~20年先に考えればよい。その前に考えなければいけないことがある。今、ある郵便局ネットワークをどう維持し、守るべきなのか。冷静に考えてほしい。過疎地で例えば、週に数回移動郵便車を出すなどのやり方で、三事業のユニバーサルサービスの水準を維持することなどできない。郵便局ネットワークは赤いポストが置いてあるだけの話ではなく、郵便局長が地域に存在し、マンパワーを使って貢献することで、維持が成り立っている。地域に目を配りながら仕事をしてきた長年の積み上げが信頼としてネットワークの力になっている。上辺の効率性だけを計算してもその価値ははかり切れない。大切なものが失われ、その崩れは日本社会全体に影響する。

■それでは、何から手をつけるべきでしょうか。
 誰が見てもこれは進めておかなければいけないものから手をつけていくことが重要だ。例えば、三事業のユニバーサルサービス。言葉として踊っているのだが、何一つ法的な担保がない。どんな過疎地でも離島でも等しく提供しなくてはならないことは皆分かっている。改正法ではユニバーサルサービスを「郵便局を介して」提供せよと明記してある。だから、ユニバーサルサービスとは、言葉を変えると郵便局ネットワークの意味がある。
 しかし、現状は過疎地で最も金融難民が存在する地域では他金融機関は撤退せざるを得ない状況下にある。どう補完しながら郵便局ネットワークを維持するかを、会社も、全特も、政治も考えるべきだ。人口が減少し、高齢化率も高くなるばかりで税収も厳しい。
 過疎地の赤字局に三事業別の高い目標を掲げ、全国一律の競争を強いても太刀打ちできない。過疎の郵便局と市町村と企業の三者が、過疎だからこそできるビジネスモデルを生み出し、誇りを持って仕事ができる仕組みを作り上げていくべきだ。農協も含めてもう少し力を合わせて何かできるのではないか。三者が力を合わせ、行政の一部を郵便局は代理店のような形で補完をし、郵便局だけを残そうと目指すわけではなく、過疎地を守る砦の役割を果たさなければならない。
 収益を稼ぐのは都市部局。都市部ではいくつかの局を合わせた形にして中堅の局を増やしてもいいのではないかと思う。しかし、過疎地局は違う。
自治体は平成の大合併で、広域行政の中でまず地方税が軽減された。人が住まないから税収も上がらない。産業を興そうなどと言っても、本当の過疎地には会社も越してこないから雇用も生まれない。 若者もいなくなり、子どもが生まれない。人が育っていかない。年老いて亡くなられる方も多い。人口は減るばかり。それが過疎地の現状だ。過疎の郵便局も同じだ。
 自民党大会で箱根駅伝に3年連続優勝を果たした青山学院大学の原晋監督が「アフリカ勢が強い理由は自宅から学校まで約5~10キロの道のりを走って通っているからだ。日本の小学生は玄関からすぐにバスなどに乗ってしまう。日本も強くなるために過疎地に学校施設をもっと作るべきだ。生徒や若いコーチも住み、子どもも生まれ、良い環境に恵まれる」と素晴らしいことをおっしゃっていた。

■地域性を活かすために支社にもっと権限があるといいということでしょうか。
 その通り。やはり現場には支社が近い。支社に相当な裁量権と責任を与えて、支社の強化を図るべきだ。13ある支社を八つ程度に区分けしてもよいと思う。今、本社が主導する支社の人事などは支社に任せて、本社は経営の根幹の計画などを決定する形が理想的だ。赤字を出すことに支社長が責任を持つ。そうなってくると、会社組織も営業と直結した施策を考えざるを得なくなる。
 官僚機構が悪いと思うわけではない。しかし、官僚機構と民間企業の違いは、民間は自分たちで考えてやれることは何でもやる。官僚機構はやれと言われたこと以外はやってはいけない。民間の場合、1本の指示命令系統でも、そこから派生する問題は「おまえたちの責任」となる。
 やれることしかやってはいけないとの考え方は競争会社では通用しない。発想の自由が出てこそ全員が知恵を絞れる。言われたことだけやるのは民営化企業とはいえない。
 既に国営時代に現場は知恵を絞ってやってきた。地方は地方で自由にやっていた。民営化当初に中央集権化しようとしたところに誤りがあった。本社があり、上から下まで指示命令系統が全部1本で下りることが組織の神髄と誤解している。日本郵政グループの持ち味を引き出すには、郵便局のできることをもっと活かすことだ。地域の特色や魅力を支社が活かしていくことだ。


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