「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6864・6865合併号

【主な記事】

新春インタビュー
社会的使命を果たす
日本郵便 横山邦男社長


 日本郵政グループが上場し2回目の新年。同じく就任2年目となる日本郵便の横山邦男社長は、改めて「社会的使命を全うしていくことを心の中に強く持ち、経営に当たっていきたい」と強調する。郵便局が「地域社会で愛され、信頼される存在であり続けたいし、それを不動のものとする」とし、「お客さまからも社員からも喜んでもらえる“ワクワク郵便局”を作り上げていこう」と呼びかける。
〈インタビュー=通信文化新報・永冨雅文〉

 明けましておめでとうございます。日本郵政グループが上場して2回目のお正月となります。グループの中核企業として日本郵便の企業価値をますます高めていくことが求められると思います。新年に当たっての抱負をお願いします。

 民営化したから、上場したからということはそれほど意識せず、かねてから言っていますが、まずは社会的使命を果たし、お客さまに親切・丁寧に親身になって対応していくということが最も大事なことです。それを行えば業績は自然についてきます。社会的使命を全うしていくということを改めて心の中に強く持って経営に当たっていきたいと考えています。
 企業の存立は社会的使命を果たすことが大前提で、それがないと成長もあり得ません。日本郵便は優れた社会インフラの郵便局を持っています。郵便局を通じてお客さまの日常生活に不可欠なサービスを提供しています。
 地域社会において、お客さまに愛され、信頼される存在であり続けたいし、それを不動のものとすることを常に思いながら対応していきます。社長就任から2年目に入りますが、郵便局が愛される存在、要はお客さまからも社員からも喜んでもらえる“ワクワク郵便局”“ワクワク郵便ネットワーク”というものを本当に作り上げていくというのが新しい年の抱負です。

 社会的使命を全うすることでは、全国に張り巡らされ、地域に密着した郵便局ネットワークの一層の活用が大きな命題だと思います。

 社会的使命というのは、普遍的なものと、時代の要請に応じたものとがあります。まずは郵便局の普遍的使命を磨き、輝かせていくということになりますが、具体的には「みまもり・健康増進サービス」に力を入れていきたいと考えています。
 高齢化が進展する中、地域の健康長寿社会の構築が重要な課題となっています。「みまもり・健康増進サービス」は、地域の安心・生活する人の健康増進に役立つという大きな意義のある事業です。また、このサービスを適切に提供することによって、コア事業である郵便、貯金、保険の三事業をさらに強化することにもなります。
 2万4000という郵便局ネットワークがあるからこそ可能なサービスです。お客さまの生活をより幅広くサポートしていくことで、郵便局ブランドをさらに光輝かせるのではないかと思います。これは高齢化、地域活性化など時代の要請に応じた使命にもつながっていきます。
 さらに、高齢者との関係から、お子さんやお孫さんとの接点も出てくることで、こうした方々との取引きも期待できます。少し視点が変わりますが、日本経済において貯蓄から投資が重要となっています。郵便局では貯金、保険、投資信託、さらには提携金融機関の商品も扱っていますが、マイナス金利、低金利の状況においては、貯金だけではお客さまにご満足いただけません。
 リスクの高いものをお勧めしようとは思いませんが、現在の経済環境で、お客さまのニーズ、資産構成をよく判断した上で適切な資産形成商品を提案していく必要があります。すなわち郵政グループとして、お客さまの総預かり資産をいかに増やしていくかということです。
 2018年度まで続く3年間の集中満期期間は大変重要ですし、それをどう展開していくか腕の見せどころです。郵便局は他の金融機関よりも頼られる存在ですので、その上で、お客さまに満足していただける商品をいかに提供していくかが課題です。NISA、ジュニアNISAの制度もあり、個人型確定拠出年金の対象も拡大します。資産形成という観点で、若い人にも郵便局を大いに利用していただきたいですね。世代を超えて郵便局との長いお付き合いをお願いしたいと思います。

 郵便局ネットワークの在り方については、社長をキャップに将来像を検討することも始まっています。


 いま始めたところです。社会や経済が変化する中で、郵便局がどのような存在になっていかなければならないかを考える必要があります。地域において郵便局はコミュニティの場です。では、何をもってコミュニティの場として活性化させるか。さらにITの進化もあります。若い世代、都市部で多忙な人に対し、利便性の高いバーチャルな郵便局というものもいかに展開していくのかということもあります。
 まずはリアルな郵便局の活性化を主眼として、バーチャルを通じてリアルを活性化するような方法はないか、特に若い人の意見を聞いて作り上げていきたいと思います。例えば、家電量販店などはリアルとバーチャルをうまく融和させています。どんなにITが進化しても、バーチャルだけでいいということは絶対にありません。リアルがしっかりしているからこそバーチャルもうまくいくわけで、よいあんばいでの展開を考えていきたいと思います。

創意工夫で“ワクワク郵便局”を

 地方創生ということで地域の活性化が大きな政策テーマになっています。郵便局長の皆さんも地域貢献活動に積極的に取り組まれています。地方創生への貢献という視点も取り入れられるのでしょうか。

 地方創生、地域貢献は、我々に課された大きな使命の一つです。
 不動産開発では大きな郵便局を地域のランドマークの役割とさせるビル開発があります。まだ大都市での展開に止まっていますが、地方都市の主要拠点でも何かできることはないか。
 地方都市を歩きますといいところがあります。ある都市では一等地の広い土地が更地となったため、暫定的に時間貸駐車場として活用しています。これは一例ですが、このような取組みを拡大していくことで、不動産事業は大きな収益の柱になってくると思います。
 また、地域の特産物を郵便局ネットワークを活用して広くPRすることもあります。現場に毎週のように行き郵便局長の話を聞くと、非常に良いもの・美味しいものがたくさんありますし、食べ物だけでなく素晴らしい景色など地域の特色を郵便局ネットワークでPRすることも地域貢献になるでしょう。
 これもリアルとバーチャルを組み合わせることで、魅力的なPRができます。

 郵便局をクリックすると、地域の名産物、観光名所などを紹介してくれることができるといいですよね。

 地域のPRは物流にも関係しています。郵便局長がよく理解しているその地域の良さというものも発信してもらい、それが物流の活性化につながることも必要です。ふるさと小包ということで地域の産品の掘り起こしに取り組んでもらってきましたが、今後も行っていく必要があります。

 物産だけではなく、名所旧跡も含めて地域のアピールを郵便局がサポートしていくことですね。

 そこの郵便局に行ったら、親切に教えてもらえる、その地方の切手があるなどを含めてですね。京都府の郵便局を中心に全国324局で「My 旅切手レターブック」を販売していますが、観光名所なども紹介しています。切手と便箋、絵はがき、封筒をセットにした商品で、旅先で気軽に手紙を楽しんでもらえます。京都以外の観光地でも作っていこうと検討しています。

 若い人の感性を活かすという面では、明治大学と連携して学生が発案した新しい商品も販売されました。

 どんどん増やしていきたいし、特に親しまれる商品という意味では女性の視点を入れることが大変重要だと思います。郵便局ネットワークの将来像を検討するに当たっても、役員には、自分と同じような人間だけでは絶対考えるな、これこそダイバーシティ(多様な人材を積極的に活用)で、女性、若い人、支社、郵便局の社員の意見をどんどん集めてくれと言っています。

 先ほどのお話ですが、お客さまも社員もワクワクするような“ワクワク郵便局”を創意工夫して作っていくには、若い社員の発案、現場の声を経営にいかに反映させるかが重要となります。

 常々「現場、現物、現実主義」が大事だと言っています。支社長会議や全国主幹地区統括局長会議などを毎月行っていますが、現場が抱える課題、地域の特性に応じたやり方の提言などを求めています。サービスは全て全国一律の必要はないわけです。地域のマーケットに応じて大いに創意工夫してもらいたいと思います。やりたいことをやってもらうという気持ちが強いので、積極的に声を上げて欲しいと思います。
 大きな会社ですから、意見もトップまで来る間に、角が取れて丸くなり面白味のない提案になりがちですから、私自身も汗をかかないといけません。どんどん現場に行って、数多くの人に会い、何でも言ってほしいと直接伝えていきたいと思っています。

地域の郵便局は維持

 過疎地では郵便局は唯一の金融機関として地域住民の生活になくてはならない役目を果たしています。経営的に厳しい状況にあると思われますが、ユニバーサルサービスを提供していかなければなりません。


 地方の郵便局は維持していきます。それが我々の安心・信頼を提供する価値です。1局1局の採算で考える必要はないと思っています。2万4000というネットワークがあるということ、これが価値の源泉です。
 都市部についてはもっと目立つところに移転することはあるでしょう。お客さまのニーズ、利便性などを踏まえながらの再配置は、大都市部では行いたいと思います。

 物流事業ですが、海外展開も含めてどのような方針で臨まれるのでしょうか。またM&Aについては。

 eコマース、そして国境を超えたeコマースも非常に盛んになってきました。
 日本の商品は海外でも非常に人気が高く、越境eコマースも盛んになってくると見込まれますので、これに対応する宅配事業は強化していきたいです。
 そういう環境の中で2015年にトール社を買収しましたが、同社を国際物流のプラットフォームにしていかなければなりません。現在はオーストラリア経済が低迷しており、厳しい面もありますが、アジアを中心とした国際物流についてトール社を活用することは十分可能です。
 海外との関係では、郵便インフラをベトナムやミャンマーへ現地の郵便局へのコンサルタント事業という形で輸出しており、積極的に貢献したいと思っています。また、ロシアについても何年かにわたってディスカッションを重ねており、積極的に対応したいと考えています。

 日本郵便は郵政グループの中核企業として郵便局でゆうちょ銀行、かんぽ生命の商品を扱っています。グループとしての連携も重要ですね。

 連携というよりも一体運営です。ゆうちょ銀行、かんぽ生命と会社は分かれていますが、お互いが協力して、お客さまに良いものを提供していくことを、今後もどんどん行っていかなければなりません。切っても切れない関係であり、一心同体です。連携施策についてもトップでの打ち合わせを密接に行っています。

 現場の業務ですが、4月から機能重視のマネジメントが動き出しました。これまで進められてきて評価と課題は。

 お客さまのニーズも非常に多様化している中で、仕事の専門性を高め、営業力、生産性を向上させ、会社を持続的に成長させることが目的です。1年目の評価として、機能重視のマネジメントは深化してきていると思います。
 フロントラインの努力により、収益面に一定の成果が表れていますが、まだまだ課題もあります。1年経ったところでもう一度どんな課題があるかを見直し、さらに深化を進めていきたいと思います。

愛される存在に努力

 郵便局長、社員の皆さんは、地域に密着して様々な活動をされています。改めて新年に当たってメッセージをお願いします。

 地域社会で一番愛され、信頼される存在であり続けるために、もっと改善の努力をしていこうと呼びかけたいですね。愛される存在になる努力なくして、愛情は得られません。たゆまぬ改善の努力をして、持ち前の笑顔でお客さまに対応していきましょう。
 お客さま第一の姿勢と言いますか、わが社には金融機関に対して言われているフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)の概念がDNAとして強くあります。お客さま第一の視点を今まで通り常に持って、笑顔で接していこうということを強調したいですね。
 社会的使命を全うしていくことは、最大の財産である社員が健康で生き生きとしていなくてはできません。健康に留意して、愛情と自信を持ってお客さまに接してくださいとお願いします。

 昨年6月28日に社長として日本郵便に復帰されましたが、以前の印象と違うところはありますか。

 就任してから可能な限り時間を作って郵便局を訪問していますが、現場は変わっていないと思います。お客さま第一の姿勢はいつの時代も郵便局は変わらないですよね。

 大切にされている言葉は。

 師匠である幻冬舎の見城徹社長の言葉「圧倒的努力」は、求められたら書いたりしますね。また、見城社長は「GNO」と言うのですが、「義理・人情・恩返し」です。この二つは心の中にあります。ただの努力ではなく、成し遂げるために圧倒的努力をすることです。しかも義理・人情・恩返しが大切です。
 ITが進化しても人と人の繋がりが大事で、「GNO」がないとだめだと思いますね。自分だけが100%得するなどは絶対にあり得ません。ビジネスもそうです。そうでないとお客さまとの長い関係なんて構築できません。子や孫の代まで信頼されるのは、自分だけでいいということを思わないからです。

 郵便局長の皆さんもよく話されていますが、金利とかそういうことではなく、普段からの深いコミュニケーションが営業につながると聞きます。

 義理・人情・恩返しを郵便局長の皆さんたちが無償の愛、無償の努力で行っているから、結果としてお客さまも同じように返してくださるということが多いと思いますね。

 全国を回られていると聞いています。

 まだ回り切れていないところもありますが、ずいぶんと行きました。熊本や東北にも行きました。地震の被害は今でも残っています。そういう災害のときも郵便局は地域の方から高い評価を受けている存在であるということは間違いないですね。
 1995年の阪神・淡路大震災のとき、私がいた住友銀行は全銀協の会長銀行だったのですが、役所からの要請もあり早く支店を再開しようとしたのですが、検討する前に郵便局は再開していたのです。住友銀行や他の銀行でも、社員は被災者だからそこまでやる必要があるのかという議論がありました。その議論をした会議はテレビ会議でしたが、再開することに対して関西のメンバーからは怒号が出ましたよ。こちらも「郵便局は再開してるんだよ」と怒鳴り返しました。
 郵便局はすぐに開けましたし、郵便も避難場所を探し出して届けに行きました。普通の民間企業だったらあり得ません。話を聞くだけで涙が出る思いです。地域に貢献したいというのは郵便局のDNAであり、これからも引き続き守っていきたいと思います。


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