「通信文化新報」特集記事詳細

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第6862・6863合併号

【主な記事】

国が支援する仕組みを
郵政特命委 ユニバコストで議論

 三事業のユニバーサルサービスコストを政府(国)が担保する仕組みを構築すべきとの認識が高まっている。12月7日、自民党の「郵便局の利活用を推進する議員連盟」(郵活連=野田毅会長)が細田博之総務会長に決議を申し入れた際、「郵政事業に関する特命委員会」役員の議員が「株式の50%以上を国が持っている間は、ユニバコストは国が負担すべき」と訴えた。細田総務会長が委員長を兼ねる特命委が動く可能性が濃厚になってきた。与党税制改正大綱で会社間窓口委託手数料に係る消費税の特例措置の文言に「経営基盤の強化のために必要な措置の実現」と加わったことも影響したと見られる。

 郵活連は、ゆうちょ銀行限度額引上げと新規事業の実現を2016(平成28)年度内に実施することなどを盛り込んだ決議を行い、11月29日に高市早苗総務大臣、12月2日に麻生太郎財務・金融担当大臣、7日に細田総務会長、8日に二階俊博幹事長に申し入れた。
 コストについての発言は7日、申入れで衆参議員が集まった懇談の席上、三事業のユニバーサルサービス維持のために何を支援すればよいのかとの話が持ち上がった時だった。細田会長が委員長を務める特命委は、もともと金融2社の限度額引上げを専門的に議論する委員会として立ち上げられたものだが、名称の通り「郵政事業に関する」案件であれば集中的に審議できる。
 日本郵便は4月から社員の専門性を活かすことで、営業力と生産性を高めようと機能重視のマネジメントを本格実施。ゆうちょ銀行は収益の92%を占める資金運用で運用とリスク管理を高度化した。2009(平成21)年3月末には1・5兆円と総資産のうち0・6%に過ぎなかった外国証券の割合を16年9月末には45・7兆円と22・0%まで増やした。かんぽ生命もオルタナティブ運用責任者などを採用し、リスク性資産投資を拡大している。
 その中でもグループ全体の増収増益への道のりの壁は厚く、日本郵便も過疎地のユニバーサルサービス維持について、公的な場で不安の心情も明かしている。
 郵活連の決議には、三事業のユニバーサルサービス義務を課される中で「税、預金保険料、生命保険契約者保護機構負担金などは一切の考慮がないまま他社と同様の負担が強いられていることは、成長にとって阻害要因」と記されている。
 議連幹事長の山口俊一衆院議員は「新規事業は、小口融資なども含めて申請中のものが最も的確かをヒアリングしていきたい」と議連総会の場で語っている。城内実衆院議員も「申請がどのような理由で認可に至らないのか、抽象的ではない根拠を検証すべき」と指摘した。
 高市早苗総務大臣は12月9日の記者会見で、通信文化新報の「与党税制改正大綱では、仕入れ税額控除の地域を過疎地に絞って要望したが、『引き続き検討』となったことへの見解は」の質問に、「窓口業務を一体で行う他の金融機関では発生しないため、金融2社にとって追加的な負担。大綱では認められなかったが、『経営基盤の強化のために必要な措置の実現』のために引き続き、所要の検討を行う、と追加された」ことを強調した。
 公明党税制調査会長の斎藤鉄夫衆院議員は「追加部分の文言の重みを理解いただきたい。経営基盤強化のために必要な措置も検討していくことになる。公明党の郵政問題議員懇話会もそうした仕組み作りを支援していきたい」と語った。
 政府の支援措置として、米国では盲人用郵便と不在者投票郵便、カナダでは議会用郵便、フランスでは定期刊行物、ドイツでも選挙郵便の割引部分に補助金を設けている。
 民進党郵政議員連盟(古川元久会長)は12月8日に議連総会を開き、現状の課題を探った。議連事務局長の奥野総一郎衆院議員は「限度額も大切だが、運用先がなければ資金を集めても収益増に直結しない。3社の話を聞いて感じたのは新規事業が重要。勝ち取っていけるよう支援したい」と意欲を示した。
 議連総会に参加はしていないが、藤末健三参院議員は「日本郵便の自己資本の充実を図るべき。上場3社の時価総額から考えると、郵便事業は株式市場からマイナスの評価を受けていることになる。郵便局ネットワークを活かすためにどのような新規事業に取り組むべきかが勝負」と強調。新規事業については全国郵便局長会(青木進会長)が議連などの会合でカードローンの実現に向けた支援を依頼している。
 一方、細田総務会長の新たな発言があった場では、郵活連の野田会長が「郵便局が積立NISA(少額投資非課税制度)にもっと取り組んではどうか」と話し、周辺の議員が耳を傾けた。積立NISAは金融庁の税制改正要望が認められている。集まった議員からは「元本割れもあるため郵便局にはそぐわないかもしれない」との声も出ていた。
 金融庁は「市場が業界をどう評価しているかを表すPBR(株価の純資産倍率)を見ると、銀行業界の評価が非常に低くなっている。今は収益性が低いためだ。利ざやが縮小し、融資しても採算をとることが難しい。確かに通常無担保で手をつけやすい個人向けカードローンだけが、ある程度採算が見込まれる融資事業になっている。しかし、数年前に貸金業者の多重債務者の問題が起きて、貸金業者に総量規制が設けられた。銀行は規制対象になっておらず、すぐに審査できるとCMを流していることに、日本弁護士連合会が疑問を呈している。郵便局が継続的にできる事業にするためにはあらゆる対応を考えていただかなければならない」と説明する。
 また「積立NISAの郵便局、ゆうちょ銀行での活用は、投信で有利な扱いになることだと思う。貯金で預けるより基本的に有利だ。JP投信などの商品は分かりやすく手数料が安い」と期待感を示す。
 「郵便局、ゆうちょ銀行が活用できる仕組みとしてもう一つ期待できるのは来年1月に始まる個人型確定拠出年金。かんぽ生命とも関わってくるのではないか。所管は厚生労働省だが、投資した全額が所得税、住民税の控除が受けられる。ゆうちょ銀行はほぼゼロ金利でも貯金者に支払わなければならず、日銀にも資金を払って預かってもらっている。貯金より少しずつ積み立てた方が個人資産が増えていく。金融庁としてはこうしたバランスの中で、金融2社の規制緩和や新規事業、限度額全てを考えている」と語った。



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