「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6829・6830合併号

【主な記事】

地域貢献は郵便局の原点 ⑫
三重県北勢地区郵便局長会
〈発表者〉 梅戸井局 木村陽一局長
〈補助者〉木曽岬局 白木圭司局長

 三重県北勢地区郵便局長会の員弁部会、郵便局は「地域に必要とされる基地局」となるべく、地域と様々な連携施策を展開している。特に美味しい米を売り出し、農家の後継者問題に役立てようと、東京市場への販路拡大を実現した。また「郵便局のお米頒布会」に掲載できるように運動、次は伊勢茶を海外に販売しようと活動している。郵便局長の使命は「組織力を活かして地域文化を継承し発展させること。そして地域の未来を語ること。どのような地域にしていくのか、志を共有して挑戦、グランドデザインを創造していくことが重要」と、地域とのさらなる関係づくりに尽力している。=全特地域貢献活動発表会での取り組みを紹介=

 梅戸井郵便局のあるいなべ市は三重県最北端、平成15年に員弁郡にあった五つの町の4町が合併して誕生した。人口は4万6000人。
 三重県北勢地区郵便局長会の員弁部会は、いなべ市9局といなべ市に加わらなかった一つの町の員弁郡東員町の2局、合わせて11局からなっている。東は岐阜県西美濃地区会の海津部会、北は同じく岐阜県西美濃地区会の大垣西部会、西は滋賀県と県境に位置している。
 地域に必要とされる基地局を目指し、地域の生産者、主に農家が毎月「イナベーション」という委員会を開催しており入会した。イナベーションは、いなべ市とイノベーションの技術革新という言葉にあやかりつくられた。委員会に入会した目的は、地域の同世代との関係の構築、地域が何を望んでいるのか、員弁部会としてどのように地域活動に協力ができるのかの三つ。
 イナベーション実行委員会では、年に2回のイベントを開催している。まず、冬の2月は「めちゃなべ ザ・対決」。いなべ市に地域の生産者の野菜の直売所をしている道の駅のような店があり、ここで“いーなべ”(美味しい鍋)対決をするというイベント。
 このイベントにどういう企画で出店するか、員弁部会の局長11人で打ち合わせをした結果、デジタル機器、カメラ、パソコン、プリンターをフル活用してポストカードを作成し、「手紙文化を広めよう」ということになった。ぽすくまと一緒に子どもたちを写真に収めて、その場ですぐに光沢はがきに印刷、ポストカード化するというものだ。題して「ぽすくまと写真を撮ろう!」。
 約350人に参加いただき170枚のポストカードを作成した。 当日はあいにく小雨だったが、ぽすくまの人気は非常に高く、行列ができた。ポストカードのプレゼントとともに切手を販売、地域の皆さんにたいへん喜んでもらった。
 8月は夏のイベント。いなべ検定ウルトラクイズというテーマで、いなべ市に関するクイズ大会が2月と同じ会場で行われた。夏のイベントはどうしようかと部会で話し合いを実施。手紙文化を広める第2弾にしようということで、敬老の日が近いこともあり「敬老の日 ポストカードを送ろう!」を企画した。
 子供どもたちをカメラで撮って、ポストカードにするもの。2月に続いてぽすくまに会いたいと来る人も多く、「敬老の日に、ぜひ孫の写真を届けて」と大盛況だった。
 イナベーション実行委員会で生産者と様々な情報交換をする中で、「なかなか農業の後継者づくりに苦労している」ことを感じた。地域の事業所に必要とされる基地局の局長として、どのように後継者問題について役に立てるか考えた。いなべ市の特性をいろいろと聞いてみると、「非常に米が美味しい」ということだった。
 いなべ市は鈴鹿山脈と養老山地に囲まれた地形で、水がきれいで寒暖がある。「いなべ市の米をブランド米にできれば、後継者のモチベーションにもつながる。後継者問題にも役立つのではないか」というヒントが得られた。
 いなべ市はミルキークイーンという品種の米が有名ということを教えてもらい、何とか「郵便局のお米頒布会」に載せてもらえないかと、三重県北勢地区会の長田春樹会長に相談し、担当部署にカタログ掲載に必要な企画書などを郵送することができた。
 同時に農業の後継者づくりに、直接関係する他の何か良い方法がないかと並行して考えた。   2020年に東京オリンピックが開催されることや、経産省がクールジャパン戦略として米や日本酒、日本茶を海外に売り込もうとしていることなどから、東京市場に販路ができれば、いなべ市の農業に“ワクワクとドキドキ”が生まれるのではないか。また、流通に携わることで、ゆうパックの差出個数に直結するとも考えた。
 東京・恵比寿の米割烹「米福」の知り合いの料理長を訪ね、ミルキークイーンをメニューに採用いただけないか相談した。「すでにミルキークイーンは、千葉県の成田市産を採用している。ミルキークイーン以外の米を持ってこい」と言われた。
 ミルキークイーン以外の米ということで、コシヒカリ、キヌヒカリ、ヒカリ新世紀を提案した。ヒカリ新世紀はもっちり感があって、味もしっかりしている。名前もグッドということで、ヒカリ新世紀が採用されることとなった。2015年4月から、いなべ市のヒカリ新世紀が、東京の米割烹に採用された。ヒカリ新世紀の生産者から「米づくりの自信につながるよ~!」とたいへん喜んでもらった。東京との販路の第一歩ができ、地域との密着に大きな手ごたえを感じたし、たいへん嬉しかった。
 余談だが、2015年5月29日放送の「ぴったんこカンカン」という番組で、樹木希林さんと市原悦子さんが、昼食に米福を訪問した。店の紹介でテロップの1番上に「ヒカリ新世紀(三重県いなべ市)」の米があるよと紹介された。全国放送、それも金曜日の午後8時というゴールデンタイムに、大きな宣伝をすることができた。いなべ市のヒカリ新世紀という米もすごいなと思った。
ただ、生産量が限定されているなどもあって、生産者に相談すると「郵便局のお米頒布会」ではちょっと難しいかなということで、「ミルキークイーンで検討いただく方が好ましいな」という結果になった。
 ミルキークイーンは2015年度の「郵便局のお米頒布会」に採用となり、北勢地区会の83局の局長が一丸となって、いなべ市の米のブランディングの宣伝と販売に汗を流している。10、11月の2か月で5キロと10キロを合わせて、約900個がゆうパックで発送された。
 「いなべ市の米はすごいんだ!」と生産者が気づいた。同時に「員弁部会の郵便局長の皆さん、すごい組織力と行動力だね!」ということで喜んでもらった。何より局長の組織力について、たいへん大きな関心を持ってもらうことができ、本当に良かったと感じている。「いなべ地域ミルキークイーンブランド研究会」も立ち上げ、生産者、三重県の農政担当者と活動にはりきっている。
 いなべ市の特産品の東京市場への販路づくりに挑戦しているが、次は伊勢茶を何とか海外に販売できないか検討した。弟がオーストラリアのビクトリア州、ちょうどトール社の本社があるところだが、ここで日本食店を出しているので、2015年8月の夏休みの帰国時に、伊勢茶の生産者を紹介した。
 伊勢茶は味が深く、すごく美味しいということで、オーストラリアにも輸出されている。伊勢茶はオーストラリアの皆さんに非常に人気があるということで、今後の輸出量が楽しみだ。
 2015年8月11日付の日経新聞に「高級農産品、アジア直送」という記事が1面に掲載された。「イオン・全農・全日空・ヤマト」とあり、「郵政」という文言がなかったことが残念だった。この「高級農産品、アジア直送」という記事が「高級農産品、郵便局長がブランド化!?」とか「郵便局長、地方創生に活躍」といった記事になることを非常に期待している。
 郵便局長の魅力だが、監督官庁は総務省と金融庁、他にも関係省庁は手紙文化が文科省、特産品は農水省、TPPは経産省、防災士は国交省と関わりがあり、局長は地方創生の総合商社の社長と言える。前島密翁の1円切手の販売から地域の防災対策や高齢者の見守りまで、地域、また国民に必要とされる人材であると強く感じている。
 郵便局長の使命は地域文化の継承と発展であると考える。これは地方創生事業の担い手だ。この地方創生事業をしっかり培っていくために、三つの柱を考えた。
 一つは一時情報での勝負。現地現場に足を運ぶということだ。自らの目と耳で、地域の方々が何を望んでいるのかを目の当たりにすることが重要。そして、地域の方々に「たのまれる」「たよられる」ことが増えることによって、「何か私たちにもできることない?」に変わる。これが非常に重要であると思う。
 二つ目は集団的機能の強化。これは、地域からの信頼。2015年8月、東海地方会において4県一斉に各警察本部と連携し、地域のスーパーやホームセンター、駅前などで振り込め詐欺などの特殊詐欺の撲滅に向けて、警察官と共に注意喚起のビラ配りを実施した。テレビ取材をはじめ新聞や地域の広報誌で取り上げられ、「局長さん、地域のために本当に一生懸命ですね。頭が下がります」と激励の言葉を各地区でたくさん頂戴した。
 部会組織、地区会組織が束となって、組織力を持って地域文化を継承し発展させることが、局長会の歴史であり、さらなる地域からの信頼を築いていくことが重要ではないだろうか。
 三つ目は地域の未来を語ることだ。これは、局長が地域のオピニオンリーダーと共に、目先の利益や小手先のテクニックで地域づくりをするのではなく、数十年後をどのような街、地域にしていくのか、志を共有し挑戦していことだ。つまり「グランドデザインを創造」していくことが、非常に重要であると感じている。
 この局長会の先達が築いた、地域・国民への高邁な精神をしっかり継承し、地域とのさらなる関係づくりに尽力し、来るべき日の準備に磨きをかけ、高い志を持って行動していく覚悟だ。



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