「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6785号

【主な記事】

特命委が限度額で提言
「段階的に引き上げを」

 日本郵政グループの金融2社の限度額引上げが決着しないまま、予断を許さない状況が続いている。自民党の郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟(郵活連=野田毅会長)の決議を受けて、郵政事業に関する特命委員会(細田博之委員長)は6月23日、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の限度額を段階的に引き上げ、最終的には撤廃すべき、との提言案をまとめた。しかし同日、党の最高意思決定機関とされる総務会で、金融機関側に立つ反対意見などが出されたために議論は紛糾したもようで、最終的な結論は不透明となっている。引上げは、グループの上場と地方創生が重なる議論の好機を逃した場合、今後も数十年据え置かれる可能性があり、郵便局関係者からは「何としてもこの時に」と期待する声が高まっている。

 総務部会郵政政策小委員会と郵政事業に関するプロジェクトチーム(PT)を統合し、2月に発足した特命委員会は限度額問題を中心に13回の会議を経て「日本郵政グループ3社の株式上場における郵政事業のあり方に関する提言(案)」をまとめた。グループ各社と全国郵便局長会(大澤誠会長)、全国簡易郵便局連合会(小山洋会長)をはじめ、金融機関や生保会社、国内外の証券会社、全国知事会、全国市長会、全国町村会、郵政民営化委員会、総務省、金融庁などからヒアリングを実施し、意見交換を行ってきた。
 特命委では、超低金利時代にあって引上げによる貯金獲得は必ずしも経営向上につながらないなどの指摘を踏まえても、1000万円は少な過ぎるというのが大方の意見だったことを強調。利用者利便、特に退職者や高齢者、郵便局以外に他の金融機関がない地域を考慮し、「上場前の9月末までに2000万円まで引き上げ、2年後までに3000万円、株式処分の進展状況に応じて近い将来、他金融機関同様に撤廃すべき」と提言した。
 ただし、他金融機関から預金の預け替えを勧める営業行為は厳に慎むべきで、ゆうちょ銀行は新規や顧客の利便性を満たす範囲での貯金の受け入れに徹すべきと金融機関側に配慮した文言を盛り込んだ。
 政府に対しては、上場前の限度額引上げが可能になるよう速やかに関係政令の改正など所要の措置を講じ、その後も適時適切に対応すべきと要望した。
 かんぽ生命については、基本契約が限度額1000万円、加入4年後に300万円の上乗せが可能になるが、その通計部分を700万円引き上げて1000万円とし、その後に基本契約1000万円も引上げを検討すべきと提言した。しかし、加入の際に医師の審査を要しない無審査加入は経営上リスクを抱えることから、慎重にすべきと強調している。
 特命委は、上場後に国際物流分野への本格展開を目指す日本郵便をはじめ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命も物流や金融の国際化に対応できるビジネスモデルを構築し、企業価値を高めるとともに、日本の成長戦略に寄与する企業グループであることを望んでいるとした。
 ゆうちょ銀行の新規事業として申請されるカードローンや住宅ローンをはじめ、個人、法人向け貸付業務は、上場後に速やかに実施できるよう関係省庁で認可すべきと指摘。また、「グループ内における投資信託会社の設置と投信商品の開発による手数料増」「ATMの相互乗り入れの積極的拡大により、地域金融機関との協力関係の構築」など今後の展開に期待を寄せた。
 特に、運用体制について、リスク管理を図りながら社債や外国証券など収益性の高い運用対象の投資割合を引き上げることで、資産運用力を強化すべきと提言している。
かんぽ生命の「他社との提携による保険新商品の開発、促進」を加速化させ、「他の生保各社との協調による再保険の引受」などにも取り組みながら収益拡大を目指しつつ、外国証券や金銭の信託を通じた国内株式への投資割合の引上げなどで最適なポートフォリオを構築し、資産運用力を培うべきことを強調。そのための専門人材の確保と育成に励むべきことも付け加えている。
 日本郵政グループは、その資産規模で企業価値が決まるわけではなく、むしろ有価証券、信託、融資などを含む「資産の運用力」に投資家の厳しい視線が注がれることを肝に銘じなければならないとした。社員が総力で知恵を出し合い、企業価値を高めていくことを求めている。
 地方創生に向けて、約2万4000の郵便局ネットワークはあらゆる可能性を秘めているとも指摘。物流では新鮮で安全な農林水産物を国内だけでなく、世界に届けることが望まれるとし、人口減少時代にあって「郵便局を中心に小さな拠点を形成し、みまもりサービスなどの高齢者へのサービスや自治体の代替機能の提供を果たす」ことにも期待感を示している。
 「日本郵政グループによる他の金融機関との協調融資や共通のファンドからの出資において地域金融のリスク分散を図ることも大切な地方創生への貢献」と位置づけ、「自治体を積極的に支援することで地方創生に参加してほしい」と呼びかけている。「限度額引上げを検討する」と公約に掲げたからには、速やかに実行を望むと結論した。
 さらに、グループのみならず、郵便局現場も他金融機関、保険会社、物流企業と連携する必要があるとし、郵便局が各種団体や行政と協調して進むことが地域社会での共存共栄を実現すると提言した。


>戻る

ページTOPへ