「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

第6771・6772合併号

【主な記事】

地域金融機関との協力を提案
西室社長 ゆうちょ銀行社長を兼務

 日本郵政の西室泰三社長は3月18日の記者会見で、“地方創生”の観点なども踏まえながら地域金融機関と協力体制を醸成し、郵便局ネットワークを地域社会に役立てる方策を模索していることを明らかにした。ゆうちょ銀行の社長人事については4月から当面、西室社長自身が兼務するとし、「今の体制においては最善の策。上場までには専任の社長を決定したい」との意向を示した。また、日本郵便が4月からふるさと納税支援スキーム、クールEMS取扱局・国の拡大、スマートレター、ゆうパックの受取ロッカーなど次々に新サービスを開始することを強調。さらに、日本郵政グループの事業活動がグローバル化することを踏まえ、「会計基準にIFRS(※国際会計基準)の導入を検討している」と語った。

 西室社長はゆうちょ銀行社長を兼務することについて「やむを得ない選択。後任の選定にあたっては人物、人柄、経験を優先し、また、公募などは考えていない。後任が決まれば早く経営に入っていただきたい」としながらも、「上場に向けて全力を尽くしたい」と意欲を示した。
 ゆうちょ銀行が募集した管理職社員に37人の応募があったとし、「今後の収益力向上のために極めて重要な分野であり、今回の採用により、市場運用とリスク管理能力が飛躍的に向上する組織にしていきたい」と、やや時間をかけて選考する方針を示した。
 グローバル化を踏まえたIFRS導入は「グループ連結決算にできるだけ早く導入して、作業を始めたい。日本の会計制度とIFRSでは、のれん(投資価額と被投資企業時価評価純資産のうち持分相当の差額)の償却方法が異なるなども背景にある」ことも明かした。
 また、4月からふるさと納税の特例控除額の上限が1割から2割に拡充されることに伴い「ふるさと納税支援スキームを開始する」と強調。「日本郵政グループとして“地方創生”に協力するためにぜひとも推薦したい」と述べ、「ゆうちょ銀行専用の払込取扱票がセットになったふるさと納税リーフレットを政府が作成する予定。ふるさと納税を取扱いしやすくし、自治体の負担増を解決できるような手伝いをする。御礼品の発送など一連の業務はグループの業務に適している。既に一部自治体からパッケージで提案いただいている」と説明した。
 日本郵便の新サービスは「国際的に日本料理への関心はますます高まっているため、現在25局で取り扱うクールIFRSを4月から78局に拡大する。香港、台湾、シンガポール、マレーシア、ベトナムに加え、フランスでも始める。新封筒型サービスのスマートレターは4月3日に、ゆうパックを希望時間や場所で受け取れるロッカーサービスは4月9日にスタートする。多種多様な発送手段を求めるお客さまの利便性向上に応える経営基盤の拡充に必要性が高いサービスだ」と強調した。このほか「創部1年を迎える日本郵政女子陸上部の寮が東京・小金井市に完成し、新たに4人の選手が加わる」など喜びを語った。
 記者団からの「日本郵政グループ中期経営計画の策定状況と春闘の交渉について」との質問に対し、「最終段階に至っていない。収益性、生産性の確保、コーポレートガバナンスなど課題があるが、グループの商品・事業戦略と郵便局ネットワークの活性化という二つの成長戦略が基本。二つをつないだ様々な戦略をしっかりと進め、3月末までには策定して公表したい。春闘は皆目見当がつかないが、現実に厳しい経営状況がある」と述べた。
 「『自民党の郵政事業に関する特命委員会』(細田博之委員長)の議論をどのように活かしたいか」には「議論は非常に活発に行われている。方向性の検討には今後2~3か月かかるとのことだが、我々もその間、地域金融機関と敵対するのではなく、郵便局ネットワークを活用してもらえるような協力を醸成する努力が必要だ」と強調した。
 「ゆうちょ銀行社長を兼務することに関して、ガバナンス上の利益相反を防止するための体制整備はどうか」には、「3月中に規程や体制整備を行い、取締役に報告する」と述べ、「上場スケジュールへの影響はどうか」には「上場スケジュールへの影響については答え難いが、なるべく早く事前審査プロセスに入りたい。事前審査はおそらく3か月程度必要になるが、それをやっておけば本申請をしてからの期間がひと月くらいで終わるというのが今までの例だったため、これまで申し上げてきたスケジュールは大丈夫であろう」との見通しを示した。
 「IFRSを導入する、しないは上場に向けてどのような違いがあるか」には「大きな投資をしてトール社を買収した。償却して赤字になるのでは、との評論を書いた方が何人かいた。IFRSによる会計はすぐに償却しなければならない、と記されていない。ただし、IFRSののれん代償却は議論中の話だ。その結論が出てから最終決断をする」と語った。
 「金融2社の限度額引き上げに対して、他の金融機関は反対のスタンスを崩すわけにいかないと思うが」については「自民党で方向付けが決まって限度額引き上げが実現されれば我々にとってはありがたい。日本郵政グループは政府保証がない中で、多くの税金も納めている」と説明した。
 「スマートレターはクロネコメール便が廃止される代替商品として出されたものか。以前から検討されてきたものか」との質問に対し、「お客さまにとって便利な封筒はどのようなものか以前から検討した結果、小型サイズのものは使い勝手が良いと始めるもの」と強調。「物流に求める顧客ニーズが細分化しているのか」には「そう思う。一歩も二歩も便利になった方が良いと考案された」と答えた。「採算に苦しむ日本郵便が他社の受け皿になるのは、さらに採算が悪くなる可能性はないのか」には「採算を無視しているわけではない。現状、採算が上がらないのはボリュームが足りないため。ボリュームさえ出てくれば採算がとれる」と述べた。
 通信文化新報の「地域金融機関との協力体制で具体的に働きかけているものは」には「互いに困っている部分で助け合いができるのではないかという話は、小規模だが既に始まっている。個別具体的な話はできないが、出先を閉めたいので、代行をやってくれないかとの話もある」と語った。

※日本の会計基準は被買収企業の時価総額と買収価格の差額を“のれん”として貸借対照表に資産計上する。IFRSの場合は、買収で得られる販売チャネルやブランドを無形資産として“のれん”とする。日本の会計基準ではのれんを20年以内に均等に償却することが求められているが、IFRSはのれんの償却が認められていない。


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